私の腕を掴んだまま大きく息をつき、涙をこぼしているクリスティーヌがふと視線を動かした。

その視線の先を見遣ると子爵が楽屋を出ようとするところだった。

扉が閉まる。

子爵の姿が楽屋から消えた。


「あいつを見ながら逝ったんだろう? ……どうだ、良かったか」

「うっ、うぅ…………」

「夫が良かったかと聞いているんだ、返事くらい欲しいものだね」

「どうして、どうして……」

子爵がいなくなったことで、声を上げて泣き出したクリスティーヌから己を引き抜くと、

その場に泣き崩れた彼女をそのままに鏡を動かす。

彼女の腕を掴み、楽屋に引きずり込んだ。


「いやっ、いや…………!!」

「つい今しがたまであいつがいたんだ、あいつのにおいがするんじゃないか? 今度はここで逝かせてやるよ」

私のシャツの袖を掴み、激しく抵抗するクリスティーヌの腕を掴むと頭の上でひとくくりにして組み敷いた。

はだけたブラウスから先刻私が蹂躙した乳房が見え、それを掴んでゆっくりと揉みしだく。

乳首を摘まみ、先端をかりかりを爪で擦ってやる。


名残りの蜜を先端になすりつけ、ふたたび彼女を刺し貫く。

涙をこぼしながら抗う彼女のそこからは大量の蜜が溢れ、男の侵入をよりいっそう容易にする。

喉の奥から絞り出すような呻きを洩らしながら、それでも彼女の内襞はうねって私を迎え入れた。

やわやわと私の柱に絡みつき、ひくひくと収縮を繰り返す粘膜を感じる。

「相変わらずだな……、どんなに嫌がってもおまえのここは私のものに夢中じゃないか」

「ああ…………」

乳首を摘まんで指先を擦り合わせるようにして弄ってやると、さらに入り口がきゅうっと締まり、

続いて奥から襞がうねってくる。

そのうねりに応えるように腰を大きく送り込む。


「あぁ……ん、あ、あぁ……ん、やあ……」

拒絶の言葉に甘い喘ぎが混ざり、その屈辱に涙を溢れさせる。

彼女のそこからはとめどなく蜜がこぼれ、すべりが良くなった彼女の胎内を

犯しつくすような気持ちで責め上げると、腰を左右に振ってよがった。

「そんなによがって……、もし今やつが戻ってきて、このおまえの姿を見たらさぞや驚くことだろうな」

「あ、ああ……」

「私に突き上げられてこれほどによがっているおまえを見たら、さすがのあいつも諦めるだろうよ」

「やあ……」

「何が嫌なものか、もう逝きたくなっているんだろう? いやらしい女だな……」

「ああ、マスター……」

彼女が哀しい声で私を責める。

ああ、私はこんな風に呼ばれたいんじゃない……、どんな風でもいいから彼女の声で

私を呼んでもらいたいと思ったが、やはり私が聞きたいのはあの優しい声だ……、

私を責めるのではなく、私を慕って呼ぶあの優しい声だ……。

だが、もう二度とあの声を聞くことはないのだ。


大腿の裏に手を掛け、大きく腰を使いながら首筋を舐め、耳朶を噛む。

床に投げ出されたまま、抵抗することもなくなった彼女の手が時折びくりと顫える。

乳首を摘まみ上げ、捏ねくりまわし、乳房を乱暴に揉みしだく。

指の腹で肉芽を転がし、爪の先で弾いてやる。

私のものをいっそう深く咥えこもうとするように腰を引いて私を迎える。

なのに彼女の首だけはその快楽を拒むように激しく横に振られている。

「さあ、逝け、さっきまであいつがいたこの部屋で、私に抱かれて逝くがいい」

早い動きで肉芽をいらってやりながら激しく突き上げる。

「ああ……、あああああぁぁぁぁ………………!!」

……クリスティーヌがふたたび達した。


クリスティーヌが達する瞬間、私自身も彼女の白い大腿に己を吐き出しており、

ハンカチを取り出すとそれでその痕を拭ってやった。

鏡の裏に脱ぎ捨てられたままになっていた下着を拾ってきて渡す。

泣きながら身支度をするクリスティーヌのうなじの白さがよりいっそう哀れで、

一度は信じて選んであろう夫にこれほどの仕打ちをされ、それでもただ泣くしかできない彼女が

ひどく惨めに思われた。

世界一幸福にすると誓った妻は、いま、世界一不幸な妻となっていることは疑いようもない。


しばらく身支度をするクリスティーヌを見下ろしていたが、次第に嗚咽がこみ上げてきて、

私はよろよろと床に崩れ折れた。

「マスター……?」

心配げに私を呼んだクリスティーヌの声を聞いた途端、私のなかで何かが爆発した。

「もういい! もういらぬ! もうおまえなど……、おまえの顔など見たくない……、」

「………マスター、ごめん……な、さい………」

ここで私に詫びるクリスティーヌの気持ちがわからない。

「なぜおまえが謝る? なんでおまえが謝る必要があるんだ? 私を愛さないことを詫びているのか、

 それともいまだにあいつを愛していることを詫びているのか!」

「マスター………」

「ああ………、このままでは、私はいつかおまえを苛め殺してしまう……、

 どうか私にそんなことはさせないでくれ……、お願いだ、クリスティーヌ、……どこか……、

 どこでもいい、どこかへ行ってくれ! 私の前から消えてくれ! お願いだ……」

「マスター……」

「お願いだ……、」

「どうあっても……」


床に手をついたまま、溢れ出る涙が膝を濡らすのにもかまわず、私はただただ泣いていた。

彼女が何か発したらしいことはわかったが、その言葉すらも耳には入らない。

あれほど自分のものにしたいと焦がれた妻が、今は見るのも厭わしい……、いや、今でも愛している、

魂の奥底から、狂おしいほど愛している、だからこそもうこれ以上は耐えられなかった。

これほど愛しているのに、クリスティーヌは私を愛さない。愛されないから彼女が憎い。

憎いのに愛している……、自分でもどうしようもないほど愛している。愛している。愛している。愛している。


一体、私はそこでどのくらい泣いていたのだろうか。

慟哭から覚めてあたりを見わたした時、もう、どこにもクリスティーヌの姿はなかった。


クリスティーヌが私のもとを去って、一体どれくらいが経ったのだろう。

あれほど愛し、あれほど憎んだ私の妻はもういない。


あの時、もしやと淡い期待を抱いて急いで地下へと戻ってみたが、やはりクリスティーヌの姿はなかった。

いくつか心当たりを探してみたが、オペラ座内のどこにも彼女の気配はなかった。


食卓につけば、クリスティーヌの気配のないことが悲しく思い出され、もう何も喉を通らなかった。

食べないでいると、だんだんと食べないことが当たり前になってきて、

私はもう物を食べようと努力するのをやめてしまった。


クリスティーヌが使っていたベッドに横になり、かすかに香る彼女の残り香を感じながら

過ごす時間が一番幸せだった。

ある時、彼女がいつも編んでいたレース編みを見つけたので広げてみると、なにやら大きな一枚布のようで、

よく考えてみるとそれは寝台に掛けるスプレッドのようであった。

クリスティーヌは私たちふたりが寝むベッドのためにこれを編んでいたのだろうか……。

いや、まさか、よりによって夜具ということはあるまい。

拷問に等しい行為を強制される刑場を飾るために、わざわざ編み物をする女などいるはずもない。


テーブルクロスには大きすぎるその編み物を、かつてクリスティーヌを無理やりに抱き、

責め苛んだ手で抱きしめる。

今、この編み目のつまったレース編みを抱きしめているように優しく、

包み込むように抱いてやれなかったことが改めて悔やまれる。

私はいつだっておまえを優しく包み込むように抱いてやりたかったのに、どうしてそれができなかったのだろう。


一心不乱にレース編みをしていたクリスティーヌの姿を思い浮かべようとしたところで愕然とした。

思い浮かぶ彼女の顔は、悲しそうに俯く顔や寂しそうに微笑んだ顔、涙をこぼしている顔ばかり……。

ひと月もともに暮らして、クリスティーヌの心からの笑顔として思い出せるのは、

私たちが初めて結ばれた翌朝、ジリー夫人に結婚の報告に行った帰りに階段ではしゃいでいた折の笑顔だけだった。


世界中の誰より幸福な妻にすると神に誓い、クリスティーヌに約束し、己も固く決心していたのに、

彼女を一度しか笑わせてやれなかったことが私の最大の罪、

そして、今この瞬間にたったひとつの笑顔しか思い出せないことが私への最大の罰だった。


誰より愛しいクリスティーヌ……。

私はおまえにたった一度しか笑顔を与えることができなかった……、どうか、どうか許しておくれ……。

嫉妬深く狭量だったおまえの夫をどうか、どうか許しておくれ……。

薄れゆく意識のなかで、私はただひたすらクリスティーヌに詫び続けていた。





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