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コミケ
:2005/11/30(水) 22:05:17 ID:XX5lmOkg
マダムには、疑問に思うことがあった。
それはこのオペラ座のことだ。
毎年夏と冬、そして春頃にオペラ座は妙に殺気立つ。
美術の人間はカンバスではなく、何やら薄青い線が書かれた紙にデッサンらしきものを必死にしている。
小道具担当も巨大なベットを眺めてそのミニチュアのような物を作っている。
殆どの従業員が目の下に隈を作り、しかし嬉しそうにしている。
彼女にはそれが疑問で仕方がなかった。
そんなマダムの疑問をよそに、オペラ座のいつもの3人はダンボールの山の下、話し合いをしていた。
「完成だな」
「完成ですね」
「やー今回も素晴らしい」
「あぁ、今回も自信作だ。今回の新刊はメグ×クリス『オペレッタ・百合御殿』」
「どっかで聞いたタイトルですね」
「冬に相応しいタイトルだな」
「全くだ。特にオペレッタの部分」
「ちょ、おまwwどこら辺が冬ww」
「カタログも発売されたことだし、スペースのチェックでもするか…」
パリ、オペラ座のいつもの3人は、冬コミの準備に余念が無い。
今回も早期入稿、地方の方の為に『豹の穴』や『ブドウブックス』へ委託の準備もしてあるし、
本は一律500円の形は今回も変わらない。
「やはり蛍ピはお金を惜しますに入れるべきだな」
「手触りの良いマットカバー仕様、素晴らしい」
「今回のオマケはマグネットなんですね。冷蔵庫にメモも貼れて便利ですね」
「子爵、貴方の職業が未だに気になるのですが」
「まぁ見てくれ!先着順でフィギュア付き。フィギュアサークル大手兼うちの小道具担当に作らせたのがコレだ」
「うお・・・っ」
二人の歓声があがる。
そこに登場したのはダブルベットに横たわる、ラウルでさえ(ryなクリスの姿だった。
「ウホッ・・・いいフィギュア」
「す、凄いですね・・・こ、こんな細部まで!?うっ・・・」
「今回はプレミアがつくだろうな。先着100名分しかない。しかし我々の分は確保されている」
「素晴らしいな、アンドレ」
「ど、どどどどこに飾ろう」
「シャニュイ子爵、落ち着いて」
「飾ってクリスにでも見られたらそうするんです?」
「そ、そうですよね」
「そういえばファントムの奴、今回は参加するのか?」
「前回逮捕されちゃいましたしね。流石に今回は・・・」
「あ、あった。ファントムのサークル」
「「な、なんだってー!!」」
「ほら、ここを」
そこにあったのはドン★ファン。ファントムのサークルだ。
傾向の部分に断面図・鬼畜の文字。これももう見慣れてしまったが、イライラする。
「またしつこく断面図か」
「彼も相当マニアックですからね」
「マニアックどころの問題じゃないですよ。猟奇的です!」
「逮捕してもらわにゃ!!」
「無理してナッチ節は使わなくてもいいよフィルマン。DVDでは改善されたのだから」
「しかし、ファントム先生のクリス断面図が見れるのは『ドン★ファン』だけ!」
3人が騒いでいるうちに、夜は更けていく。
その夜、漆黒の闇に紛れて仮面の男は不気味に微笑んでいた。
「やっぱり冬も断面図!明日のコミケが楽しみだ・・・」
その日の朝は快晴であった。オペラ座にかかる垂れ幕にはこう書いてある。
『コミック・マーケット6in花の都』
「倫敦どんより晴れたらpくぁすぇdrfgyふじこ」
「やめろ!東映に殺されるぞ!今その歌は禁止だ!」
「そんなにナージャは黒歴史なのですか?」
「バッ・・・バカッ!!」
相変わらずな3人だが、やはりこの瞬間には顔が引き締まる。
使命を遣り遂げた男達の物語が、コミケにはあるのだ。
スワロフスキー製のシャンデリアが輝き、そして次の瞬間・・・怒号、そう形容した方が正しいであろう声が
オペラ座に響いた。
「ぷにもえーーーー!!!」
「それはぷにけっとだ!!」
「ゆーこりーん!!」
各々の心情が入り混じり、オペラ座は幕を開けた。
大手に位置する『オペラ座』は、てんやわんやであった。
最後尾カードはどこまでも伸び、もう見えなくなっている。
支配人2人はスマイル0円でファン達に応えて、それでいて本もきっちり捌く。
ラウルはこの点、まだ素人同然なので、本の整理や袋詰めを手伝っていた。
しかし、自分達の作った本に、これほどの人が集まってくれることに、喜びを見出している。
ただ心に残るのは、この同人誌が『百合』であることだ。
彼は純粋にクリスを愛している。出来ることなら自分とクリスの本が作りたい。
「だがしかし、そんなことをしたらあの忌々しいOGと同じ自慰野郎になってしまうではないか」
そう、ファントムは自分の同人誌で、自分×クリスをやっている。
普通は引かれるものだが、彼の天才的な物語と、絵、そして彼の魅力に多くのファンがいるのは事実だ。
そして今回、サークル参加しているファントムことエリックのサークルには、人が集まっているではないか。
「逮捕されても帰ってくるって信じていました!」
「やっぱり『ドン★ファン』最高です!」
今回の『ドン★ファン』新刊は、オフセット36ページの表紙フルカラー。
タイトルは『これが私のマスター』コレでもかというほどの鬼畜な、それでいて何処か中毒性のある絵で描ききっている。
そして購入特典は手拭いだ。可愛くディフォルメされたクリスと、見事な書体で『オペラ湯』と書かれている。
ネタにも凝る、それがドン★ファンクオリティだ。
「アンドレ、奴だ」
「あぁ、相変わらずのようだな」
「我々の本ももうすぐ完売だ。まさか挨拶に行くと?」
「そうせにゃ!」
今回は妙に気が合う2人だった。
「やぁ、ファントム」
「ごきげんよう、支配人方。ところでまだ私の給料が振り込まれていないのだが」
「同人誌で儲けてるからいらないだろ」
「まだ資金が必要だ。私とクリスの愛を、世界に見せ付ける為の資金がな」
「そうはさせないぞ!!」
支配人とエリックの間に散る火花に飛んで入ったのはラウルだった。
いつ着替えてきたのか胸の肌蹴たドレスシャツに、長剣を持って既に息切れしている。
「子爵、コスプレに長物は駄目なんですよ」
「コスプレじゃありません!私はこいつが許せない!可憐なクリスを毎回酷い目に合わせて!」
「君には、愛の形というものが分からないのだよ」
「分かりたくもない!そんな愛!」
「ふっ・・・若造が」
このセリフを言ったのはアンドレである。
「ミスター・アンドレ?」
「すまない、つい乗ってしまった」
「と、とにかくだ、決闘を申し込むぞ!!」
ラウルが何処から出したか手袋を投げつける。と、その時。
「すみません、コミケット運営委員会の者ですが・・・あのーコスプレにはですね、登録が必要なんですよ」
「・・・は?」
「それとですね、お客様。剣等の持込は禁止されていまして、そちらは運営が預からせて頂きます」
「子爵、だから言ったじゃないですか!コスプレはルールを守らないと!」
「一人のレイヤーがやったら、皆がやっていいのですか?子爵!」
「ちょwwwwwどっちの味方ww」
「とりあえずこちらにご同行願いますね」
シャニュイ子爵の哀れな叫び声を残して、そこには支配人2人、そしてエリックが残った。
「あ、あのこれ今回の新刊なんで、よろしければ・・・」
「毎回すみません!これ、よろしければどうぞ、拙いものですが」
「わー!素敵な手拭いですね!使うのが勿体無い」
「そちらこそこのフィギュア!限定品なのにいいんですか?」
「いいんですよ!クリスを愛好するもの同士じゃないですか!」
仲が良いのか悪いのか、今回の冬コミも無事に終わった。
3人と、そしてオペラ座に集まる人々の瞳には、シャンデリアより眩い星が光っていた。
そう、オタクの未来は明るいと、そう暗示させるかのように。
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