220 :1/6:2005/12/10(土) 10:28:00 ID:4vzjHrAN

すっかりと肌蹴させた男の胸に跨る。

荒い鼓動が密着した内腿に、下腹に、重い振動となって伝わる。

クリスティーヌは頭を沈めると、喉の傷を舌で擽った。

口の中に広がる錆の味。

閉じられた目蓋がひくりと動くのを見て、そっと呼びかける。

「…天使さま…」

開かれた瞳は暫く中を彷徨い、やがてクリスティーヌの顔で焦点を結んだ。

「気持ちよかったって、おっしゃって」

深く座りなおす。裾に入ったスリットが大きく割れて、

微かに頭をもたげた男の視線がその奥へ吸い寄せられた。

「気持ちよくて…打たれて縛られたまま2度も果てたって、ね?」

「…ち…がう…!」

掠れた声。ファントムは頭を左右に振り、身を捩る。


「違う?」

クリスティーヌは目を細めた。

顔を近づけ、ファントムの顎を捕らえる。

「ではアレは…私を汚したものは、何だったの?」

「…!く…!」

耳を打つ低い声。きりと肉にくい込む爪。ファントムは痛みに顔を仰け反らせた。

「…ああ、ごめんなさい、マスター」

細い指が解かれ、優しい声と甘い息が頬を撫でる。

「まだ…満足して頂けてないって、そうおっしゃってるのね」

「クリス、ティーヌ…!」

体を持ち上げようとした為、繋がれた鏡台が大きく揺れた。

上に乗った小瓶が倒れ、次々と床に落ち、砕ける。

続けざまにあがる物音に、2人の動きがぴたりと止まる。

静まり返った空間に、不規則な男の呼吸だけが響いた。


「…あら、もう皆帰ってしまったのかしら」

誰かがやってくる気配はない。

クリスティーヌはちらりと短くなった蝋燭に視線を走らせた。

「よかった。これでいくらでもお声を聞かせて頂けるわ

…今まで我慢させてごめんなさい。」

男の唇を指で辿りながら、自らの唇を舐める。


胸元を留めるリボンに細い指を絡める。すいと引くとあっけなくそれは解けた。

優雅な動作で部屋着の肩を落とし、腕を抜く。

ほっそりした上腕を、褐色の巻毛が蛇のように滑る。

コルセットを取り去り上半身をを露わにすると、クリスティーヌは自らの身体に視線を落とした。

なだらかな曲線、淡い色の先端に感じる男の目。

くすくすと笑うのにあわせ、柔らかな乳房の影が男の腹で揺れた。

「…触れたい?」

少女めいた表情は拭い去られ、替わりに嘲るような笑みが浮かぶ。

両手で男の頬を挟むと、自分の胸元に押し付けた。

乾いた唇の感触が、柔らかい膨らみの上を這う。

「ん…」

やがて、そこを湿った熱い舌が貪り始めるのを感じ、

クリスティーヌは溜息を漏らした。

男の手を縛めるストールが軋む。

黒い皮手袋の指が、何かを求めるように蠢いている。

「…まだそれは、解いてはさしあげられないわ」

身体を起こしながら呟く。触れなくても分かっていた。

男の一部が再び力を持ち始めていることは。


腰を浮かし、下着をずらし、男の腰のほうへ移動する。

「うう…!」

手を添えただけで、それはまた硬く立ち上がった。

先端を身体の中心にあてがうと、じわりと腰を落とす。

既に溢れていた蜜が、水音を立て、呑みこむのを助ける。

やがて総てが自分の中に納まったのを確認して、

クリスティーヌは上体を倒すとファントムの胸に手をついた。

茫洋とした瞳を見詰めながら、ゆっくりと腰を回す。

「…止めろ…止め…」

苦しげな声が、クリスティーヌの背筋を撫で上げる。

「ん…くぅ…」

心地よさに小鳥のような鳴き声を上げながら、頭を反らす。

下腹をファントムのそれに擦りつける度、自分の中が蠢くのが分かる。

そして、包み込み絞り上げているものが、徐々に硬さを増していることも。

「やぁ…っ、んん!」

ふいに起こった下からの揺すり上げるような動きに、

クリスティーヌは思わず悲鳴のような嬌声をあげた。

肩越しに視線を遣ると、投げ出されていた脚は膝を立て、床を蹴りつけている。

「ふふ…どう…なさったの?止めろって、おっしゃったのに」

動きを止め、突き上げられるままに身体を弾ませる。

「ご自分で、動いてらっしゃるのね」

クリスティーヌは声を立てて笑った。

「気持ちいいの?止められないの?」

首の下に腕を差し入れ、抱き起こすようにこちらを向かせる。


男はうっすらと目を開けていた。

淡い宝石のような色の瞳は、

今味わっている感覚に塗り潰されながらも、底に暗い光を宿す。

覗き込むとそこには、まるで同じ目をした自分が写っていた。

「クリスティーヌ…クリス…ティーヌ…」

荒い息の下で切れ切れに自分の名を呼ぶ男の、醜く崩れた頬に舌を這わせる。

盛り上がった肉に添って、引きつったこめかみまで。

唇で強く吸うたび、男の腰は大きく反った。

「ああ、ア…」

悲鳴にも似た声を上げ、肘を床に落としてファントムの肩に額をつける。

豊かな髪は背から零れ、動きに合わせ男の胸を掠める。

揺すり上げる動きに合わせて自らも動きながら、波打つ筋肉に2度3度と歯を立てる。

その度に捻れ、引き攣れた唇は悦びの呻きを漏らした。


「痛いのも、随分と、お好き…なのね?」

一度つけた歯の跡に再び噛み付く。血の匂い。

「クリスティーヌ!あ…あああぁ!」

獣のような声とともに、男の身体ががくがくと揺れる。

繋がっている部分から全身に広がってゆく波に、全身を委ねる。

自分の中で熱い塊が弾けるのを感じ、クリスティーヌもまた、頭を仰け反らせた。

白くなりゆく意識の隅で、少女はやはり獣のような自分の声が

男のそれと重なるのを聞いていた。


先程脱いだガウンで身体を拭うと、クリスティーヌはゆるゆると立ち上がった。

別の部屋着を羽織り、男の両手からストールを解く。

袖を少し捲ってみると赤く擦れた跡がついていた。

ストールは柔らかい素材だったが、酷く引っ張った所為だろう。

皮手袋をつけたままの掌を握り、縛めの跡を舐め上げる。

「う…」

低い声とともに、男の目が開いた。

ぼんやりと天井を見上げ、ついで顔を横に向けると微笑むクリスティーヌを見つめる。


次の瞬間ファントムは弾けるように身体を起こした。

クリスティーヌを見上げ、吠えるように叫ぶ。

「売女…!悪魔の手先!淫乱な毒蛇め…!」

「その売女で悪魔の手先の小娘に嬲られて、あんなに悦んでいらしたのに」

クリスティーヌは立ち上がるとその様子を見下ろしながら、小さく笑った。

「…黙れ!」

「詰られて、…」

肩口についた、血の滲む歯型を眺める。

「痛みを与えられて、嬉しそうに鳴いて、何度も…」

「黙れッ!!」

「治った頃そこに、また違う跡をつけてさしあげたいわ。

杖がお好み?鞭がよろしい?それとも…」

細い肩口を大きな手が掴む。そのまま音を立てて壁に押し付けると、

ファントムはクリスティーヌの喉に両手を掛けた。


「黙れ…!」

怒りに震える声、血走った瞳。

「…それとも、天使さま」

場にそぐわぬ呼びかけに、男の手が一瞬緩む。

「キスして欲しい?」

白い頚に黒い指を巻きつけられたまま、細い指をファントムの顎に滑らせる。

顎から頬へ、そして強張った唇へ。

「ラウルにしたように」

その名を聞いて、男の指に力が戻った。

静かな声が、頬を歪ませる男に囁きかける。

「あなたなら、私の首を折ってしまうことも出来るのでしょうね」


声に誘われるように手に力が篭る。指は蛇のようにゆっくりと、確実に息を奪ってゆく。

クリスティーヌは瞳を閉じた。唇を薄く開くが、もう声を発することは出来ない。

なぜ抗わない?なぜ助けを求めない?

ファントムは混乱のままに指に力を加え続ける。

細い身体から、少しずつ力が抜けてゆく。

掌に感じる脈が、重く、速くなる。

頬に熱病のような赤みが現れ、対照的に唇が色を失ってゆく。

何故止めろといわない?

「…何故じっとしている…」

何の表情も浮かんでいなかったクリスティーヌの眉根が少し寄せられた。

「抗え…さっきのように脅してみろ…!」

低い、唸るような声に、伏せられた睫が震える。

「離せと叫べ!許しを乞え!止めろと…言ってくれ…!」

男の掠れた叫びに、瞳を開いた少女は静かに笑みを浮かべた。


瘧に罹ったように、ファントムの全身が震える。

細い首を掴んでいた指がぎこちなく開き、支えを失った細い身体は床に崩れ落ちる。

座り込み激しく咳き込むクリスティーヌを

どこか焦点の合わぬ目に写しながら、ファントムはがくりと膝を折った。

クリスティーヌの足元に蹲り、部屋着の裾を両手で握り締め、

白く柔らかいレースを頬に押し当てて何事か呟く。

苦しい息を整えつつも、クリスティーヌはその唇の動きを見逃さなかった。

「…お母様?」

「…!」

丸められた広い背がびくりと強張る。

「お母様は…どうなさったの?」

目の端を投げ捨てられた白い仮面が掠め、ファントムは怯えたように顔を背けた。

「…死んだ…最後まで、私を、憎み…罵り、酷い言葉を投げつけながら…」

「お母様はあなたに何とおっしゃったの?」

「呪われた、子…私の子じゃない…」

両手で顔を覆う。

「誰もお前なんか愛さない、生まれてこなければ良かったのに…死んでしまえ…」

震える肩にクリスティーヌは掌を乗せた。


「見世物小屋に売られ…見世物に…皆が私を見て、顔を顰め、

唾を吐きかけ、石を投げつけ…"悪魔の子!!"」

搾り出すように叫び、蹲った男をクリスティーヌはそっと抱き寄せる。

耳元に吹き込むように囁く。

「キスして欲しい?」

驚いてあげた顔を、少女の指が擽るように辿った。

「額や唇や…こちら側にも、首にも…」

手はゆっくり下へ降りてゆく。

「ここにも、ここにも…もっと他のところにも」

頬を両手で挟み覗き込む。

右手に感じるものとは違う、左手の硬い感触。

さっき見たのと同じ瞳の暗い輝きが、クリスティーヌの唇を緩ませた。

「してほしいなら、お願いの仕方があるわ。…マスターはもうお分かりね?」

すっと立ち上がり、表情を消す。じわりと片足を前に出す。

見上げる男の揺れる瞳をじっと見つめると、やがて男は顔を俯けた。


「愛してくれ、クリスティーヌ…」

震える手が恭しく部屋着の裾を持ち上げる。

現れた小さな足の、その甲に、ファントムは唇で触れた。

「私を、愛してくれ…愛して…」

細い脹脛に縋り、低く繰り返す。

「マスター…」

クリスティーヌは膝をつく。

ファントムの頭を抱き起こすように抱え、さらりとした髪に頬を寄せた。

「触れてあげる…愛してあげる、私のやり方で。

大丈夫、あなたにもきっと気に入って頂けるわ…さっきのように」

腕の中の身体から力が抜ける。

「あなたは私のもの…」

怪人を胸に抱く少女はうっとりと微笑を浮かべる。

そして男の唇も、あるいは燃えつきかけた蝋燭の

最後の瞬きがみせた影かもしれないが、小さく笑みを刻んでいた。




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