494 :1/2:2006/01/04(水) 09:30:35 ID:3Wh+4MIx

髪を掻き上げる白い指の隙間から、絹糸の輝きが重たげに零れ落ちる。

伏せた瞳の長い睫が影を落とす頬は上気して薔薇色。

薔薇色の原因は(残念なことだが)自分ではなく、テーブルの上のワインの空き瓶。

動きは何時もよりずっと緩慢に、視線はゆらゆらと彷徨う。

その妙に滲んだブラウンが男の上で暫し留まり、赤い唇が吐息と共に笑みの形に撓められる。

「ファントム」

どうした、と問い返す代わりに瞳を合わせ、手を伸ばす。

今まで自分で弄っていた髪に指を通し、ゆっくりと梳く。

かすかにひんやりと滑らかで、柔らかく指に絡み、流れる。

小さな頭を引き寄せると、クリスティーヌはすっと目を細めた。

「素敵」

「ん?」

「髪を…こうして触られるのは。気持ちがいいわ」

「そうか?」

梳く手を止めずに応える。

「こうして…触っているほうがよほど心地良いが」

「……。」

白い面が仰のき、じっとファントムの顔を見つめる。

おもむろに手を伸ばすと、額に落ちかかった髪を摘んだ。

「そうなのね」

頬にぴったりと柔らかい掌が当てられ、滑るようにこめかみに移動する。

指先が髪の中を泳ぎ、一気に項まで擽る。背中を走った何かに気をとられた隙に、

肩に頬を埋めてクリスティーヌが囁いた。

「本当」

くすくすと笑う。

掌で覆った肩、ブラウスの下に感じる暖かな肌、華奢な骨格。

手の甲をふわふわと毛先が撫でる。

暫く首筋で戯れていたクリスティーヌの指が、やがて再び頬へと戻ってくる。

その掌に唇を寄せようとした瞬間、ふいに両手で頭を掴まれ、くしゃくしゃと髪を掻き回された。

「こら!何を…!」

「なにって…。」

存分に掻き回しておいてから、クリスティーヌは少し身を離すと満足げに笑った。

「ふふ、面白いわ」

「何がだ!」


多少慌て気味に髪を整えようとするファントムの両手をやんわりと掴む。

「何だか若い。…たまには、こんなでも…うん、いいわ」

蕩けるような微笑。滲む瞳、吐息はかすかに葡萄酒の薫り。

少しだけ緩められた襟元から覗く白い首筋。

その僅かな隙が、大きく開いたドレスの胸元とはまた違った白さで頭の奥を焼く。

手を伸ばし、頬に触れるとくすぐったそうに笑う。

両の掌で柔らかな感触を楽しみながらそっと唇を合わせる。


しかし小さなその唇に触れたか触れないかのうちに、

いつもならするりと背に回される腕がファントムの肩を押し返した。

「…どうした?」

俯く睫に問い掛ける。

「嫌なのか?」

「……」

「クリスティーヌ?」

顎を摘む。上げられた瞳に湛えられる熱。花のような唇をまたすぐに奪いたい衝動をかろうじて堪える。

「いや、じゃ、ないけれど…」

少女は小さな声でつぶやくと、ファントムの前髪に触れた。

「…あなたじゃないみたい…」

「お前がやったのではないか。」

ファントムは笑い出した。

「ええ。でも…。」

視線を逸らせて息をつく。

「あなたじゃないと、嫌なの」

無邪気な表情で突然に放つ甘い言葉は、いつも彼に小さくは無い衝撃をもたらす。

身体の中心に熱く蟠るなにかを逃がすように大きく息を吐くと、前髪を掻き上げながら笑ってみせる。

「…これでいいか?」

「ん」

頷きざまに腕が首に回り、柔らかい唇が押し当てられた。

擽るように求める男の舌に応えて、唇はやがて薄く開く。

甘く温かな葡萄酒の香りを貪り、少し顔を離すと、くすくすと笑って額を合わせる。

「子供みたい、かしら」

「みたい、というよりそのまま大きな子供だな」

「…あなたは子供にこういうことをするのね?」

クリスティーヌは濡れた瞳のままうっとりと唇を撓めてみせた。



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