クリスティーヌを抱えて寝室へと戻る。

心臓が早鐘のように打っている。私は運命の女神の前髪をかろうじて掴むことができたらしい。

ペチコートをつけたまま、私の首に腕をまわし、恥ずかしそうに私の肩に頭をもたせた

クリスティーヌがあまりに愛しくて、どうにかなりそうだった。

ベッドにクリスティーヌを降ろし、ペチコートと下着を取り去る。

私にされるがままになっているクリスティーヌの頬は羞恥に紅潮していて、

顫える睫毛がその頬に翳を落としている。

薄暗い寝室のなかにあって、クリスティーヌの白い裸体は光を放つがごとく輝いていた。

ああ、ふたたびおまえとこうして肌を合わせることができるとは………。


私自身もベッドに乗り、羽根枕を背に凭れかかると、クリスティーヌをそっと抱き寄せた。

私の脚の間に納まって、クリスティーヌが私の胸に頬を寄せる。

強く抱きしめたまま、しばらくじっとしていた。

クリスティーヌの髪の匂いがふわりと香って、その甘い香りに誘われるまま、彼女の髪を撫でてみる。

嬉しそうに私を見上げたクリスティーヌの唇が欲しくなって、私は彼女の顎を支えたまま、

そっと己の唇を重ねた。一瞬、顫え、それからそっと開けられた唇の間に舌を挿しいれる。

私を求めるように舌を絡めてくるクリスティーヌを心の底から愛おしく思いながら、

私も優しく彼女の温かい舌を味わった。

彼女のうなじに手をまわして頭を支えながら、唇を舐め、舌先を吸い、

ゆっくりと優しく舌を絡めあっていると、いっそうクリスティーヌへの愛しさがこみ上げてきて、

その強い思いをどうしていいのかわからなくなる。


彼女の背に手をまわし、もう一方の手で肩先から腕に掛けてゆっくりと撫で下ろしていく。

次第に激しく上下してくる胸の下へと手を滑らせていった。

乳房を持ち上げるようにして、それから親指の腹でそっと胸の頂きをかすめる。

「ああっ!」

肩を大きく揺らして喘ぐクリスティーヌの思ってもみぬ敏感な反応に欲情を刺激されて、

私は思わず身を屈めてその可愛らしい果実を吸いたてた。

「あ、ああっ、……マスター……っ!」

私の舌で乳首を舐められ、舐められて濡れた乳首を甘噛みされて、

クリスティーヌが身を捩って快感を伝えてくる。

何度も何度もクリスティーヌの可愛い乳首を舐め、

尖ってそそり立ったそれを啜っては甘噛みしてやる。


私の肩に手を掛け、両の胸の頂きに与えられる強い刺激に頭を左右に振りながら、

クリスティーヌは絶え間なく甘い吐息をついていて、そのしどけない喘ぎをもっと聞きたくて、

可愛い乳首を口のなかで転がしながら、手をゆっくりと腰へと滑らせる。

腰のくびれを幾度か往復し、なめらかな曲線を手のひらに感じたあと、

やわらかい臀のふくらみをそっと掴んだ。優しく撫でまわし、そしてゆっくりと揉む。

「あぁ……んっ、マスターぁ……」

交互に乳首を舐められ、舌で転がされながら尻臀を揉みしだかれ、

クリスティーヌが艶かしい声で私を呼ぶ。

「愛している……、クリスティーヌ……」

ひりひりと焼けつくようにクリスティーヌへの愛しさがこみ上げてき、そ

の強い思いをどうにも制御できなくて、私は何度も何度も彼女の名を呼んだ。

「クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ………、

ああ、愛しているんだ……、愛しているんだ、クリスティーヌ…………」

「マスター……、マスター……、…………マスターぁ……」

クリスティーヌも切ない声で何度も私を呼んでくれる。

白くはりつめた双丘を両の手のひらで押し拡げるようにして揉むと

首を左右にふって彼女がよがる。

やるせなさそうに眉根を寄せて、私の肩に縋りつくようにして、

臀をかすかに捩って、羞恥に頬を染めて感じているクリスティーヌが愛しくてたまらない。


彼女の大腿に手を掛けた。片脚を己の脚に掛ける。

「ああ…………」

羞恥に満ちた声を上げて、クリスティーヌが私にしがみついた。

片手を私の腰にまわし、もう一方で私の腕に掴まる。

臀を揉んでいた手を、ゆっくりと下へ滑らせていく。

「あ、あ、……あ、ああ……、ああ…………」

私の手がどこへ向かうのかを察したクリスティーヌの唇から

驚きと羞恥と期待の混ざった声があがる。

「あ、ああっ!」

後ろからそっと花びらに触れると、熱い雫が肉のあわいに溜まっており、

その雫に指先が触れた途端、それが呼び水になったかのようにとろとろっと愛蜜が溢れ出た。

「ああ、もうすっかり濡れているじゃないか……、嬉しいよ……」

「あ、ああっ、……ああっ、ああっ、いや……、あ……」

ぽってりと水気を含んでふくらんだ花びらの上を溢れた愛液で指を

すべらせながら弄ると、いっそう蜜が溢れ出てくる。

私の腰に廻していない方の手で口元を押さえ、声を我慢しているらしいクリスティーヌの口から

もっと喘ぎ声を聞きたくて、花びらを二本の指で挟み、秘裂の上を中指だけでなぞってみる。

「ああっ! あぁんっ、ああ…………!」

敏感な粘膜を刺激されてクリスティーヌが声を上げる。

ああ、可愛い愛しいクリスティーヌ……、おまえの可愛い声をもっともっと聞かせておくれ……。


思わず息をのむクリスティーヌの切なく寄せられた眉根を確かめると、

その小さくしこった突起をゆっくりと転がす。

「…………ぁぁああああああ!!!」

我慢しきれず声を上げて臀を持ち上げるように振り立てた。

「あああ……、あぁん、あぁん、……あぁ……ん」

私の指の動きにあわせて切ない喘ぎ声を上げ、臀を激しく上下左右にふりながら、

クリスティーヌが私の愛撫に応えてくれる。

とろとろと絶え間なく愛液が溢れ、私の指ばかりでなく彼女のみっしりと肉のついた内腿や

白い双臀までがびしょびしょに濡れている。

肉芽を指先で転がし、めくれ上がった花びらを指の腹でしごく。

唇に咥えたひとさし指の隙間からは、指を咥えている意味などまるでないほどによがり声が洩れ、

私の胸に乳房を擦り付けながら身体をくねらせているクリスティーヌがたまらなく淫靡だった。


そっと指先を彼女の入り口に突き入れる。

大きなひくつきとともに私の指を呑み込んで彼女が喘ぐ。

幾度か彼女の温かくやわらかい粘膜のなかで指を往復させ、

愛液をかき混ぜるようにして指をなかで動かす。

そうしながら息も絶え絶えになっている彼女の唇を貪る。

舌を絡め、唇を舐めあい、彼女の甘い吐息を感じながら指を抜き差ししているうち、

クリスティーヌのなかがひくひくと波打ってきて、彼女が官能の極みに近づいてきていることを知らせる。

「ああ、私の指でこれほどに感じてくれて……、嬉しいよ、クリスティーヌ……」

「……マ、スターぁ……、ぁぁあああ………!」

私を呼ぶことすらままならないほどに感じて頭を左右にふっている彼女にそっと囁いてみる。

「なかに……、おまえのなかに……、入っても……いいか……?」

クリスティーヌが顔を上げた。

これ以上ないほど眉根を寄せ、切ない眸で彼女が言う。

「ああ、マスター……、わたしを、もう一度……、あなたの、……妻にして………」


両脚を上げさせ、私の上に跨らせると、クリスティーヌの入り口に己をあてがった。

ひく、と恥肉の蠢く感触が私自身の先端に伝わる。

ああ、クリスティーヌも私を求めてくれているのだ……。

私自身を呑み込まんとする彼女の粘膜の動きに陶然としながら、

彼女の尻臀を掴んでゆっくりと私の上に落としていった。

入り口にあてがった私の楔がゆっくりと彼女のなかに呑み込まれていく。

「あ、ああ……、あああ…………」

次第に自分のなかに侵入してくる私の感触に刺激されて、

クリスティーヌがたまらぬげに声を上げる。

「おまえのなかに私が入っていくのがわかるか……?」

「ああ、マスター、マスター……、マスター…………」

首を左右にふりながら侵入者によってもたらされる快感に耐えかねたように

クリスティーヌがやるせなく切ない声で私を呼び、私の肩に掛けた手が幾度もすがるように私の肌を掴む。


そして、私のすべてが彼女の温かい膣内に収まり、

その瞬間、私たちは何かしら成し終えた人々のような顔をして互いに見つめあった。

「ああ、マスター……、マスター……」

眉を寄せてクリスティーヌが私の眸を見つめ、私の肩に頬を擦りつけてくる。

私の耳の後ろに唇を押しあて、私の顎に指先を這わせながらも、

彼女のなかは細かくひくつき、私の柱にねっとりと絡みついた恥肉が私を包み込んで、

その彼女の唇や指先の愛情深い動きと私を包む粘膜の淫らな動きとの落差がひどく刺激的だ。

それから、私はクリスティーヌの尻臀を掴んだまま、ゆっくりと腰を下から突き上げはじめた。


きゅうっとクリスティーヌの入り口が締まり、奥の内襞がひくひくと蠕動する。

私の柱をやわやわと締めつけ、私が抜き差しするたび纏いついてくる粘膜の感触がたまらない。

幾度も幾度も下から突き上げ、クリスティーヌの最奥を抉る。

突き上げるたび、彼女の唇からは切羽詰った喘ぎ声が洩れ、

かつて私の慟哭しか聞いたことのないこの部屋を甘く淫らなその声で満たしていく。

突き上げながら同時に尻臀を掴んだ手で双臀を揺さぶってやると、

ほどなく彼女の内側のひくつきが規則的になってきて、

やがてひと際高い声で私を呼びながらクリスティーヌが達した。


荒い息を吐きながら目じりに官能の涙を滲ませているクリスティーヌの身体を、

繋がったまま抱きかかえ、そっと後ろに倒す。

私にしがみついていた彼女の頭がシーツに乗ると、

そこで初めてクリスティーヌが私の目を見てかすかに口元を綻ばせた。

ああ、なんといじらしく、なんと愛らしいことか………。

私の背に廻した腕を前に持ってきて、伸ばした指先で私の頬をそっと撫でる。

「マスター……、愛しています……」

私に何を求めるでもなく、ただ想いを発露するように言ったクリスティーヌの口調に

私は深い愛情を感じ、私もどうにかして自分の思いのたけを彼女にわかってもらいたくて、

彼女の唇にそっと自分の唇を重ね、優しく口づけたあと、

「愛している……」とだけ言って彼女を強く抱きしめた。

クリスティーヌは私のもので、私はクリスティーヌのものなのだ、

私たちは互いのために造られたのだ……、初めてそう思える瞬間を私たちは共有していた。

ああ、本当に私たちは愛し合っている夫婦としてやり直すことができるのだろうか………。


甘くそそるようにひくつくクリスティーヌのなかを確かめるようにふたたび抜き差しを始める。

「あぁ……ん、マスター……、マスター……」

私の首にしがみついてクリスティーヌが耳元で私を呼んでくれる。

甘い声で私を呼びながら私の頬に唇を寄せ、そのやわらかい唇を頬に擦りつけてくる。

唇を擦りつける動きと彼女のなかがうねる動きとが同調して、

彼女が私を強く強く求めてくれているような、彼女が私を深く深く愛してくれているような、

そんな気がしていっそうクリスティーヌが愛おしい。私も腰を入れながら彼女の髪や額、耳朶に口づけを送る。

ああ、愛し合って、求め合って、そして互いに与え合う交わりがこれほど幸福なものだとは思いもしなかった。

愛しい愛しいクリスティーヌ……、

あの頃、おまえがどれほど悲しい交わりを強制されていたのか、今ならわかる、

……もしも、もしも私たちがこれから共に暮らしていくのなら、共に暮らしていけるのなら、

私は二度とおまえに閨で悲しい思いをさせはしない、初めての夜に誓ったあの誓いを私は必ず守るから、

きっとおまえを大事に守るから、きっとおまえを誰より幸福な妻にしてみせるから……。


愛しいクリスティーヌの背を抱きかかえながら、真っ直ぐに突き上げる。

突き上げるたびにクリスティーヌの奥から何度も大きなうねりがやってきて、

そのうねりが入り口あたりで締めつけに変化し、なかにいる私を翻弄する。

クリスティーヌの脚が私の身体に絡みつき、私を身体ごと己の方にひきつけようと

しているのが彼女の愛情を感じるのと同時にたいそう淫靡で、

彼女のなかにある自分がいっそう奮い立つ心地がする。


仰け反った白い喉元に口づけを送る。

「あぁ……ん……」

うっすらと開いた唇から悩ましげなため息が洩れ、次いで切れ切れにか細い喘ぎ声が洩れてくる。

私の身体に絡めた脚を擦り合わせるようにして、腰を私の下腹に押し付けるようにくねらせている。

それらの淫らな動きのひとつひとつが、クリスティーヌが押し寄せる官能の波に

呑みこまれつつあることを知らせている。

頭を左右にふって、その波間からどうにかもがきでようとしている彼女と、

共にもっともっと深い愉悦の海に沈んでいきたい……。

大きく腰を入れながら「クリスティーヌ……、愛している……」と耳元で囁くと、

クリスティーヌがふるふるっと全身を顫わせた。

うすく眸を開けて「おねがい……、最後まで……、初めてのときみたいに、一緒に…………」と

苦しい息の下から囁くように言った。

「いいのか……?」

「ああ、おねがい……、マスターと……一緒がいいの……、

離れ……ないで……ずっと……、お…ねがい……」

返事の代わりに彼女の名を呼びながら激しく腰を使う。

「クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ………」


唇を舐めあいながら互いの荒い息を感じ、眸にある情慾と愛情と赦しを確かめあい、

そして……、そして、私が己を彼女の最奥に深く突き入れた瞬間、

「あ、ああっ! ぁぁあああああぁぁぁっっ…………!!!」

クリスティーヌが切なく淫らな啼き声を上げ、ふたたび達した。

私も、弓なりに反った彼女の腰を抱え、艶かしいよがり声を聞きながら、

クリスティーヌへの愛の証を彼女の最も奥深くに解き放つ。

身体の奥深く私の迸りを受けたクリスティーヌが、ひくひくと痙攣しつつさらに私を締めつけ、

私の下腹に押しつけたままの腰を淫らに揺らめかして悦楽の波間を深く深く潜っていく……。

「あ、ああ……、あ、あ…………」

唇を戦慄かせ、喘ぎとも吐息ともつかないうわ言のような声を上げながら、

深い愉悦の水底をたゆたっている彼女のなかで、私も彼女と共に深い絶頂を味わった。


「……マスター……、おねがい、わたしをどこへもやらないで……」

私が彼女から離れるとすぐに私の肩に取り縋るように手を掛けて、クリスティーヌが私を見上げた。

「クリスティーヌ……、」

「おねがい、わたしをどこへもやらないで……、おそばにおいて……」

身体の向きを変え、クリスティーヌを抱きしめる。

「私のそばにいてくれ……、ずっと……、ずっと、私のそばにいてくれ……」

胸の奥から絞りだすように言った私の背にクリスティーヌの腕が廻され、強く抱きしめられた。

「マスター……、ああ、おねがい、もう二度とわたしを離さないで……、わたしをどこへもやらないで……」

「二度と離すものか……、どこへもやらない、どこへも……」

「マスター……」

「クリスティーヌ……」

私の胸から顔を上げた彼女の睫毛が顫え、美しい眸から涙がはらはらとこぼれた。

「マスター……」

「クリスティーヌ……」

私たちは何度も互いを呼び合いながら抱きしめあった。ふたりの目からこぼれた涙が互いの肌を濡らす。

「ああ、愛している、クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ…………」



「あのレース、使ってくださっているのね……」

しばらく互いに抱きしめ合ったままでいたが、ようやくふたりして落ち着き、

クリスティーヌがベッドに起き直った。床に落ちてしまっている上掛けに目を遣って言う。

横になったまま彼女の腰のあたりに唇を押し付け、そしてずっと疑問に思っていたことを尋ねる。

「うん……、ところでひとつ聞きたいんだが、あれは、本当は何だったのだね?」

「何って?」

「あれは何を作ろうとしていたんだね?」

クリスティーヌが私を優しく見下ろし、微笑みながら答える。

「……わかっていて使ってくださっていたんじゃないの……? 

マスターがいま使われているのでいいんです、あれはベッドカバーですもの……」

ああ、あの頃、私と言葉も交わさない生活のなかで、

おまえは私たちふたりの寝台のために上掛けを作っていたというのか……。


私は、どうしてあの頃、もっとクリスティーヌとちゃんと落ち着いて

話をしてみようともしなかったのか……、己の猜疑心と嫉妬心だけに凝り固まって、

彼女の本当の想いを酌もうともしなかったあの頃の私は、何という馬鹿な男だったのだろう。

幸せであるはずの蜜月を台なしにし、貴重な二年半をふいにしたのは、

それを誰よりも強く求め、願っていた私自身だったとは、何という愚かな話なのだろう。

私もベッドに起き直り、クリスティーヌの肩を抱き寄せてぎゅっと抱きしめると、

私の気持ちを察してくれたのか、彼女が私の胸に唇を寄せて口づけをくれた。


「でもね、まだ完成していなかったのよ、ね、ちょっと小さいでしょう? 

あれ、今度ちゃんとまわりの襞飾りを足すわね」

「ああ」

私の腕のなかでクリスティーヌが言い、しかし私は胸がいっぱいでそれだけしか返事ができなくて、

それでも彼女は一向に気に掛けていない様子であいかわらず私の胸に指を這わせている。

こんな風に優しい時間を持てなかったあの頃の私たちは何という不幸な夫婦であったことか……、

その責めはすべて私にあるのだ。

あの暗黒の蜜月も、離れ離れで暮らした二年半も、私は一生をかけておまえにつぐないをしよう、

どうやって償っていいのか、今は皆目見当もつかないが、おまえに教え導いてもらいながら、

きっと私はおまえにつぐないをしよう……、そう固く決心し、

私はクリスティーヌの手のひらを持ち上げ、己だけにわかる誓いの口づけを落とした。




「なにか羽織るものを持ってこよう、ここで待っていてくれるかね?」

気がつくともう外はすっかり暗くなっていて、私は感激と喜びのあまりさして空腹でもなかったが、

クリスティーヌに何かしら食べさせてやりたいし、何はなくともまずはジリー夫人に使いをやって、

今夜クリスティーヌはこちらにいるということを報せなくてはならなかった。

「マスターのものでは大きすぎると思うから、いいわ、着替えます」

「いや、おまえのものがあるから……、おまえが気に入らなくても、今夜はそれで我慢しておくれ」

そのまま待つよう手で合図して、私は次の間に行った。

数時間前、クリスティーヌが持って入ったままのドレスが化粧机の背に掛け放しになっている。

そのドレスを手に取り、口づける。クリスティーヌが自ら脱いでくれたドレスだ。


クロゼットから薄いクレープ・デ・シンのガウンを取り出す。

誰にも袖を通してもらえないまま次第に色褪せてきていた衣装のひとつだ。

これもそっくり入れ替えようと思いながら、私は寝室へと続く扉を開けた。

ベッドに起き直って眸を伏せたままでいるクリスティーヌの唇が動いていた。

いつかの光景を思い出し、思わず身が竦む。

扉に掛けた手で体重を支えた状態でその場に立ち竦んだままじっと目を凝らした。

同じ動きを数度繰り返して、彼女がうっすらとはにかむような優しい微笑みを浮かべる。

私に気づいてクリスティーヌが顔を上げ、その唇で私に向かって微笑んでくれた。

「クリスティーヌ、これでいいかな?」

ガウンをわずかに持ち上げて聞く。

ややあって、クリスティーヌがゆっくりと口を開いた。

「ええ、…………………………エリック……」


私たちが、師と生徒ではなく、夫と妻になった瞬間だった。









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