292 :オペラ座の幽霊達 :2005/04/09(土) 13:21:32 ID:B/Dlo0Zw

姉妹であり,ライバルであり,何より親友であったクリスティーヌが

一夜にしてスターの仲間入りをしたことは,

メグ・ジリーに少なからぬ衝撃を与えた。
自分と同じはずだったのに・・・。
友の躍進は焦りを呼び,焦りは何時の間にか妬みへと変わっていく。

もし,自分にも特別な師がいたなら,

今日あの舞台に立っていたのは自分だったかもしれない。

もし自分にも特別な先生が・・・。

この思いは知らず知らずのうちに口から漏れていた。



ニコが,メグの独り言を聞いたのは偶然でもあり,必然でもあった。

先輩から押し付けられた仕事をようやく終えた彼は,

一人夜のオペラ座を歩くメグを見かけ,

何時ものように後を付けたのだ。

之までは,特に彼女に対して何かのアプローチをしようとは考えていなかった。

所詮,自分はしがない小道具係。

端役とはいえ,舞台という華やかな場に立つ彼女が振り向いてくれるとは思えなかった。

この時までは・・・。


時は流れ,仮面舞踏会が間近に迫ったある日のこと。

ニコは,またしても残業をさせられていた。

腕が良く,しかも職場で最年少とあれば当然のことだろう。

今までと違っているのは,実は喜んで残っていることか。

仮面舞踏会に向けて準備が始まったとき,

彼の中で何かのスイッチが入ってしまった。

彼は何とはなしに一つ余計にマスクを作っていた。

無機質な白色の,目と鼻を覆うだけのような味気ないマスクを。

同時に彼は,愛しい人の行動を注意深く観察するようになっていた。

クリスティーヌへの友情と妬み,有名な母への敬愛と反発。

一見,外には出ない様な感情も彼には手に取るようにわかる。

そして,何よりメグが毎夜同じ場所へ行くことを発見したことは,

彼を狂喜させる。


日増しに増える仲間の,クリスティーヌへの陰口。

メグはそれに耐えられず,かといってそれを辞めさせる気も起きないので,

彼女はその日もそっと相部屋を抜け出し,夜の散歩へと出かけた。

自然と足はクリスティーヌの練習部屋へと向う。

ここに来れば,自分にも音楽の天使が微笑みかけてくれるかもしれない。

そんな淡い熱情は彼女から,じわりじわりと思考力を蝕んでいる。


「そこで何をしている」

「!」
この部屋には自分しかいないはずだった。

振り返ってみると,そこには黒いマントをまとったマスクの男が立っていた。

「あ,あなたは・・・ファントム?」

「フフ,どこぞの馬鹿娘は,世間知らずの若造について行ってしまってな。

お前のいる場所はここではない。高みを目指すなら私についてきなさい。」

彼女に抗う術は無い。


思った以上に舌が回った。

オペラの台本をくすねて,練習しただけのことはある。

仮面をつけた今,彼は初めてオペラ座をゆったりと歩いた。

この劇場を徘徊する怪物のことを思っても不思議と恐怖は沸かなかった。

彼もその一員となったという事だろう。

大丈夫,メグは付いて来ている。




今は使われていない練習場に,二人は体を滑り込ませた。

ありがたい事に,鍵は付いているがかかっていない。

「・・・それで始めようか」

気がつくと,仮面男に組み敷かれている。

目的は何時の間にか摩り替わっていた。

自分を無視し続けてきた階層の女を見下ろしている感覚に,

彼は酔いしれた。

その隙を突き,メグは上に乗っている男を跳ね飛ばしドアへと走った。

「無駄だ!鍵を閉めたからな。もうここまで来た以上,後には戻れねぇんだよ。

てめぇもおれもなぁ!」

いくら日々バレエで鍛えているからといっても,男の力には勝てなかった。

容易く女を追い詰めると,

彼は,マントの下に着た作業衣からロープを取り出し,両腕を後ろ手に縛り付けた。

経験があるわけではない。

日々仕事に終われる身では,彼女を作るわけにも行かず,

娼館に行く金もなかった。

ただ本能の赴くままに,ネグリジェを剥ぎ取り獲物を愛撫し始める。

経験は無いにしても,細かい作業で鍛えた指先の感覚は,

体を振るわせる部分を楽々と発見してく。


ここが練習場であった,しかも記憶が正しければ歌の練習場であった以上,

いくら声を張り上げても意味は無かった。

しかも,彼女も後には戻れない。

自分を甘やかすことの無い,

いやむしろ誰に対してよりも厳格な母にこのことを知られたら,

もうオペラ座にいられないかもしれない。

父親さえいてくれれば・・・。

顔すら知らない父親を思いながら,

のしかかってくる嫌悪を耐えるほかなかった。


十代であるせいか,日々運動をしているせいか,

彼女の乳房はは小ぶりだった。

撫で,引っ張り,噛む。

獲物の弱点を攻めつつも,彼は乳房を離さなかった。

幼い頃失った母親を思い出していたのかもしれない。

ふと見上げると,メグは涙を浮かべていた。

いや,それでももう後戻りはできない。

彼は肉体的にも精神的にも限界に来ていた。


いきなり股間に何かがあてがわれる。

それが何か見る気も起こらないが,

恐れていたことがついに始まったようだ。

下世話な同部屋の先輩連中から話には聞いていた。

見たことはなかったが,劇場内でしている連中もいるらしい。

クリスティーヌはもう経験したのかしら?

そんなことを思いながら,まもなく来るであろう痛みを待った。


痛みを経験したのは,男の方だった。

自分の胸を貫く刃先を目にしながら,倒れこむ。

「私の・・・・・・私の天使に手を出すな」

薄れ行く意識の中で,殺害者の声を聞いたかどうかは分からない。

彼の遺体が発見されるのはもうしばらくの後のことだ。

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