317 :シリアス版  :2005/04/26(火) 00:38:06 ID:6VjkW6Oe

熱い吐息が、耳元を撫でる。

あの冷たい声からは想像も出来ない熱さ。

彼の血液の熱さ。

人間の熱さ。


「は…ぁ」


思わず、息が漏れる。

この人は、天使様じゃない。人間だ。

それでも、呼んでしまう。

「天使様…」


ひんやりとした皮手袋が、肌を滑る。

10本の指が繊細に、乱暴に蠢いて、まるで自分は楽器になってしまったかのよう。

声が甘い旋律を響かせるのを、私はどこか他人事のように聞いていた。

自分が自分でないような、というのはまさしくこんな感じなのだろうと、そう思った。



「クリスティーヌ」


彼女が生きてきた中で、これほどまでに美しく彼女の名を呼んだ者はいないだろう。

美しく、そして悲しく、恐ろしいほどに深い愛情を湛えた声。

まるで、父親のように。

けれど、父親の愛とは違う。

それを彼女は、何となく感じていた。

近親相姦にも似た感覚は、彼女の全身を駆け巡る。背徳と、甘美さ。それらが一体になったものだ。

言葉ではいい表せない感覚。


「天使…さまぁ」


皮の手袋が細く形のいい顎を掴む。そのまま上を向かせて、唇に触れる柔らかな感触。

クリスティーヌはそれを夢中で吸った。


「ふぅ、んぅ…」


甘い雫が滴り落ちる。クリスティーヌの唇が、男が口に含んでいた果実の汁で赤く濡れた。


「あ…ぁ、もっと…ぉ」


果実の香りが、全身の感覚を甘く麻痺させる。

お互いの歯で実を潰しあい、それを舌で交換する。唾液が絡み合い、呼吸が荒くなっていく。

歯で潰した瞬間の芳香、感触。それが自然と笑みを浮かべさせる。

純粋な喜びの微笑みとは違う、どこか悲しい微笑み。

罪の深さを顔に刻めば、このような顔になるのだろうか。


汁をすっかり飲み干し、それでもクリスティーヌは貪欲に、男の顎を伝う唾液に舌を這わせる。


「美味しいの…天使様の…」


仮面の下の唇を歪ませて男は笑う。

手袋越しに伝わる彼女の肌を味わい、熱く脈打つ部分を優しく撫でる。


「あ、あ!」


嬌声が鼓膜を心地よく打つ。何よりも好きなのは、この彼女の声なのだ。

どんな楽器より、どんな歌姫よりも美しく、心を満たすこの声。

中指をそのまま深く埋める。


「熱い…温かい…」


掠れた声が彼の興奮を表していた。

歌う声に、深く静かな感情を感じてはいた。

けれどこんな風に言葉で表すことは無かった。

渦巻く欲望を押さえつける普段の彼ではない。目の前にいて彼女を抱きしめるのは、ただの男。

それが嬉しくて仕方が無い。彼が自分を求めていることに彼女の声が高くなる。


「天使様…」


潤む琥珀の瞳。

長年求め続けた彼女が、腕の中にいる。

男は静かに目を閉じて全身で彼女の存在を感じようとした。

喉にあたる柔らかな髪、震える肩、甘い息を吐く唇。

彼女はもはや、男の為だけに存在している。


「歌うんだ、私の天使」


豪奢な飾りのついた椅子に腰をかけ、膝に彼女を乗せる。

目の前にはピアノがある。

熱く、欲望を主張する自身を手袋で宥めながら彼女の敏感な部分を刺激していく。

そう、人間はまるで楽器。

彼女を一番美しく奏でるのは彼しかいない。

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