328 :クリス×音楽の天使 :2005/04/28(木) 22:22:18 ID:YdUPm5J4


 仮面で素顔を隠した音楽の天使は、身にまとっていた闇のようなマントをばさりと脱ぎ捨てた。

 天使はクリスティーヌの指先を取り、いざなう。

 「ここは音楽の王国。君は玉座にあって、しかし、天使の導きを必要としている。

 私の力を欲しているのだ。…さあ」

 彼がその玉座へ座るように手で示したので、クリスティーヌは静かにそこへ腰掛けた。

 すると、天使は彼女の足下に跪き、真っ白な化粧着の裾をそっと手に取ると、

 愛おしそうに唇を寄せた。

 直接触れられたわけではないのに、クリスティーヌは身をふるわせた。

 「マスター…」

 身につけているものまで自分自身となってしまったのだろうか。

 彼の漏らした息がほんの少しガウンにかかっただけで、全身が総毛立つ。

 体の細胞のひとつひとつが、ざわざわと今目覚めたかのようだ。

 「云ってくれないか?私を必要としていると、私を欲していると…クリスティーヌ」

 懇願するかのような跪く仮面の天使に見上げられ、戸惑いながらも、

 彼女はこっくりと頷いた。

 「マスター…私の天使さま。どうぞ、私をお導き下さい。あなたの助けが要るのです。

 私にあなたの音楽の力を授けて下さい。どうか…」

 天使の口の端が微かに上がったように見えた。微笑んでいるのだろうか。

 仮面に隠されて、表情を読むことは難しい。

 「私の声に耳を傾けて。そして、身も心も私に委ねなさい。

 そうすれば、私は君を導き、私の全てを君に与えられるだろう」

 天使の声は高く低く、優しく響いて、それから、

 腐り落ちる寸前の果実が放つ芳香のような甘さを含んでいる。

 クリスティーヌはうっとりと天使を見つめた。

 その瞳は初めて感じる欲望に潤み、ゆらめく蝋燭の灯りできらきらと輝いている。

 「あなたが与えて下さるお力に、出来る限り報いま…マスタ…っ!…んっ…!!」

 言い終わらないうちに、天使はクリスティーヌのほっそりした足首に、ふくらはぎに、

 唇を這わせていた。

 何事かと身を引こうとしたクリスティーヌだったが、彼はそれを止めようとはしない。

 「畏れてはいけない。逃げてはいけない。私にすべてまかせなさい。

 君は己の感覚に、ただ、素直でありさえすればいいのだ」

 声さえ愛撫のよう。クリスティーヌの息が漏れる。

 唇が触れているのは、絹の靴下の上からだというのに、唇の感触が損なわれることなどなく、

 彼女は身をくねらせた。

 するすると靴下が脱がされて、天使の手が、まだ少女のような細い足を撫でている。

 「…ひっ!」

 電気が走ったような驚きは一瞬で去り、それはすぐに快感へと変わった。

 「んっ…んんっ」

 クリスティーヌの荒い息と、くちゃくちゃという音が闇の中に響いている。

 ピンク色の小さなかわいい足の指を、天使は丁寧に舌でなぞったり、

 口に含んだりして、彼女の反応を楽しんでいるようだった。


 「は…っ、んんっ…て、天使さま。お願い、お願い…」

 つま先から快感が駆け上ってきて、今まで意識したことなど無かった部分が

 潤いはじめ、何かを望んでいる。何かを待っている。

 クリスティーヌには、それが何なのか解らないが、

 音楽の天使はそれを知っているのだろうと彼女は思った。

 「まだだ、クリスティーヌ。何事も辛抱が肝心だよ?

 ああ、可哀想に、そんなに目を潤ませて」

 天使はすっと立ち上がると、クリスティーヌの方へ手を伸ばし、上気した頬に触れた。

 それから顔の輪郭をなぞり、汗で張り付いた幾筋かの髪を払ってやった。

 そして、最後に唇に触れた。ふっくらとした唇だった。ここからあの美しい声は発せられるのだ。

 クリスティーは自然と口を開き、天使の指を味わった。

 舌を動かすと、天使が小さな呻き声を発し、彼女は更に興奮した。

 それしか欲しいものなど無いかのように、夢中になって指をしゃぶる。

 「…良い子だ。良い子だ、クリスティーヌ」


 彼女の口の中から指を抜き出すと、突然お気に入りのおもちゃを奪われたような

 表情のクリスティーヌの目の前で、唾液の絡まるそれを舐めて見せた。

 「この世の終わりのような顔をしている」

 もう片方の手で彼女の顎を上向かせ、天使はそう言った。

 「マスター…」

 天使は軽く首を横に振った。

 「私の世界に終わりはない。この王国は永遠に存在するのだ。

 さあ、共に高みを目指そう。私は君を支配するものではない。

 私は君に、君は私に、作用して、力は増していくのだ。

 感覚は研ぎ澄まされ、感情が解き放たれて、肉体は重さを無くし、

 神の領域へと近づけるのだ」

 「…はい。マスター。私をそこへ連れて行って。あなたと一緒に」

 天使の甘い声と誘惑に、クリスティーヌは、はい。という答え以外見つけることが出来なかった。

 今度はクリスティーヌが彼を見上げていた。

 胸が上下し、血液がものすごい早さで体中を駆けめぐっている。

 「お願い…連れて行って…」

 哀願するような、甘えたような、掠れた声だ。

 彼女は白い両腕を伸ばすと、天使の首にまきつけた。

 「お願い。…あなた…」


 天使がびくりと見を震わせたのをクリスティーヌは感じたので、

 自分の行動が、親しげな呼びかけが、彼を怒らせたのかと不安になった。

 が、それはすぐにかき消された。

 天使はクリスティーヌを抱きしめたのだ。

 優しく、柔らかく、繭のように彼女を包む。

 その心地よさとあたたかさに彼女は目を閉じた。

 これが彼の肩、彼の胸、彼の首。彼の体温。彼の匂い…なのだ。

 胸にあふれてくる思いは何だろう?閉じられた目から涙がこぼれ落ちた。

 すぐに涙に気がついた天使は、クリスティーヌを放そうと手をほどいたが、

 クリスティーヌはよりきつく腕をまきつけた。

 「ひとりで行ってしまわないで。私を連れて行くと約束して。…放さないで」


 湧き出るような思いが何なのか。クリスティーヌは今理解できた。

 天使も同じ思いなのだろう。仮面の奥の瞳は優しい。

 彼はクリスティーヌを抱き上げる。彼女はその肩に、子供のように素直にもたれて、

 ゆらゆらと波間を漂うような感覚にうっとりした。

 「クリスティーヌ…私のクリスティーヌ」

 天使の切なげな声に胸が締め付けられる。

 愛も恋も、まだよく分からない。けれど、私はこの仮面の天使が愛おしい。愛おしいのだ。

 「…私の、私だけの…」

 クリスティーヌの唇からそっと漏れた小さな小さな声だったが、彼女を抱いて歩く男は立ち止まって、その腕に力を込めた。

 クリスティーヌはそんな彼の思いやりを嬉しく思い、自分もしっかりと抱きつくことで応えた。

 「約束をしよう。二人は共にゆくのだと」

 「…どんなことがあっても…」

 そして彼らは初めて唇を交わした。

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