固い尖りの周りを擽るのに飽きると、やわやわとその膨らみをこね回す。一番敏感なその先には触れぬよう、細心の注意を払って。

どのくらい、その執拗な愛撫を繰り返しただろう。

根気を競うような半端な刺激に、だが先に音を上げたのは彼女だった。

「あぁ…いや…ぁ…」

荒くなった息の合間に切なげに呻く。

辛うじてドレスを纏い付かせた腰が堪らぬように二度、三度と捩られ、シーツに擦り付けられる。

ほくそ笑んだ男は、両脚の間にねじ込んだ膝頭を突き上げ、脚の合わせ目に押しつけた。

彼女の下着と男のスラックスの生地を通してさえ、そこの熱い湿り気が膝へ伝わってきた。

両腕を縛められた彼女には、どんなに焦らされても己で求める刺激を得る事すらできない。

「…アンヌ、気は変わったかい?気が変わったと言えば、ここに触って上げても良いんだよ。ほら、…こうして。」

「は、ああああっ…」

乳首の先をつつ、と革が掠めると、彼女は大きく頭を左右に振って喘いだ。

悔しさに、目尻に涙が滲んでも、体内で掻き立てられていく情欲の炎は小さくならない。

「君には世話になっているからね…言いたくないような恥ずかしい事を無理に強請らせたりはしないよ。」

男は唇を耳元に近づけ、低く蠱惑的に囁いた。

「欲しいかね?素直にひとつ頷いたら、胸を舐めてあげよう…。」

「…は…っ…」

蠱惑的な甘い囁きを低音で吹き込まれて、直に耳朶を愛撫されたように身体にぞくぞくと戦慄が走る。

たまらなくなって彼女はついに小さく、頷いた。




たちまち過敏になりきった胸先をざらりと舌先に舐め上げられて、腰ががくがくと跳ねる。

「あっ、あああっ、お、お願い…酷い事をするのは止めて、あぅっ…」

長い事鍵盤に触れて来て、節くれ立った指先が右胸の乳首をつまみ上げ、くりくりと弄ぶ。

合間に左の胸飾りは絶妙な力加減で吸い上げられ、舌先で押しつぶされ、唇で愛撫されて彼女は懊悩した。

「何が酷い?私は君を苛んだりはしないとも。」

くすくすと意地悪く笑う男の膝頭が、また熱く潤った部分を圧迫し始め、濡れた音が立った。

それは僅かな刺激にはなるが、彼女の欲しい直裁的な刺激にはならない。

それでも重い快美感がじんわりとそこから沸き上がってくる頃になると、男は意地悪く動きを止めてしまう。

そして再び凝った胸先への執拗な愛撫を再開するのだ。

研ぎ澄まされた欲望に身の内を引き裂かれ、彼女は啜り泣きながらその膝に疼く部分を擦り付けた。

「もう…もう、お願い…ァァ…」

「素直になってきたね、アンヌ…ではご褒美だ。」

男の膝が離れ、代わりに力強い双の手が腰に引っかかっていたドレスを脱がせ、重く愛液にまみれた下着を下ろした。

容赦ない力に膝を割られ足を開かされたとき、焼け付くような欲望に炙られた彼女の胸にあったのはむしろ安堵だった。

「ちゃんと開いて、もっと見せて。…ああ、凄いよ。もう触って欲しくてぱっくりと口を開いているじゃないか。…見られると

感じるのだったっけね、君は?こんなに溢れてきたよ。」

「やめ…見てはダメ…ああっ…」

視線と言葉で嬲られることすら刺激になり、切ない吐息を幾度も零しながら身体をくねらせる。




羞恥の源泉を晒されて、諦めたかのように従順になった彼女の様子に満足げに溜息を吐くと、男は手を伸ばして机の上から

そっとなにかを取り、脇へと置いた。

そして頃合いを見計らって、こう口にする。

「何も言わなくて良い。解いてあげるから、昔のように私にもしてくれないか…?君はそうするのが好きだっただろう。そう、

私にこれを教えたのも君だった。」

縛めた手首のスカーフを解きおわると誘うように下唇を撫でる指に、彼女は再び頷いた。

確かに、昔は幾度もしてやったことのある行為。それが自分に与える刺激を思い出すと堪らなくなり、両脚を強く捩り合わせた。

男が手早く前立てを解くと、ぎしりと小さな寝台に上がってくる。

「…さあ。」

促されて僅かに逡巡した後、身を苛む欲望に負けて、彼女は両手を上げるとはらりと髪を解いた。

固く編まれていた長い髪が、するすると解けて白い胸の上に乱れ掛かる。

上半身をヘッドボードに凭せ掛けた男の胸の上に後ろ向きに跨ると、彼女は両手で男の怒張を取り出し、躊躇いなく口に含む。

与えなければ得られないと判っているから、自然と熱が籠もる愛撫。

長い髪がそれを隠してくれるのが有り難かった。

夢中で舐めしゃぶると苦味にも構わずに、先端に滲み出た液体を尖らせた舌先で幾度も掬い取る。

柔らかな袋を指先で揉み愛撫しながら、吸い上げたそれに軽く歯を当てて頭を上下させる。

男が低く呻くのが耳に入り、下腹にぞくりと甘い戦きが走る。

次第に前のめりになり、自然と腰が浮く姿勢──それは男の目の前に一番触れて欲しい部分を露わにしている筈だった。

一番恥ずかしい部分に視線を熱で感じる気がして、興奮に内腿を幾筋も熱い流れが伝っていくのが判る。




巧みな愛撫に呻きを奥歯で噛み殺すと、男も目の前の淫らな眺めを堪能した。

充血した花びらはぽってりと重く膨らみ、濡れそぼって鮮やかな薔薇色になってぱっくりと開いている。

奥のピンク色をした襞がひくひくと収縮しているのまで見える。

見られながら舐めていることに興奮しているのか、無意識に腰を振るたび透明な液体がそこから溢れ出て腿を伝い、シーツに

滴り落ちる。

素直な反応に微笑むと、男は花びらの合わせ目から覗いている、固く充血して愛撫を待っている肉莢を指で撫でた。

彼女自身の愛液でぬるつく指の腹を押し当てて、優しく擦る。

「あ、あああっ…」

待ちかねた刺激に腰が揺れ、甘い嬌声が上がった。

「マダム、失礼だが口の方がお留守になっているよ。」

揶揄するように告げると、腰を引き寄せて開いた花びらの狭間の溝に舌を這わせる。

とぎれがちな彼のペニスへの愛撫と、小刻みに震え始めた腰が、彼女の限界が近い事を物語っていた。

「んっ…んっ…ふぅ…んっ…」

鼻に抜けるような甘い呻きを洩らしながら一心に彼の物をしゃぶる様子に潮時と反応すると、男は顔を上げて告げた。

「さて、アンヌ…君がもっと感じるであろうプレゼントがあるんだが。少し顔を上げて、脇を見てご覧。」

声音に込められた嘲りに嫌な予感を覚え、彼女は僅かに理性を取り戻すと髪を掻き上げて顔を上げ、言われるとおり見回した。

寝台の上、男の腰の脇辺りのシーツの上でこちらを見ているのは…




「いっ…嫌ッ!」

亡き夫の優しく微笑む遺影をベッドの上に発見して、彼女は悲鳴を上げた。

「どうした、彼も放って置かれては寂しいだろうと思ってね…さあ、もっと見せてやるがいい!」

咄嗟に振り払おうとするが、哄笑した男に押さえつけられる方が早かった。

両手を背で押さえつけられると、浮いた尻の狭間に彼女自身のの育てた熱量があてがわれる。

必死に腰を捩ろうとしたが、濡れそぼったそこは着実に押し込まれる肉塊をずるずると受け入れてしまう。

そればかりか、さんざんに焦らされ刺激を待ち侘びていた粘膜が擦られ──強烈な快美感が思考を溶け爛れさせた。

「やっ、あァ──ッッッ!?」

久々のエクスタシーは強烈だった。目の裏が真っ白にスパークし、がくがくと身体が痙攣する。

「おや、他愛のない…久々の刺激が強烈すぎたかな?」

「ああっ、はぁっ…嫌、お願い…動かないで…」

男が腰を動かすと、達したばかりの敏感なそこに苦しいほどの刺激が与えられる。

ひくひくと腰を震わせながら彼女は哀願した。

片頬をシーツに擦り付けると、目の前に愛した人の写真が来て…彼女は顔を背けた。

「動くな?いいとも、君の頼みなら聞いてあげなくてはね…君がどのくらい我慢出来るかな?」

くく、と男が嗤う振動すら刺激になる。

それを待ち受ける部分は無意識にひくんひくんと飲み込んだものを締め付けてしまい、その度に幾筋も甘い快感が走り抜ける。




堪らず腰を捩ると、求めていた快感に動きを止められなくなった。

「んんっ、うぅ…」

悔し涙を流しながら、彼女はおずおずと腰を振った。

男の高価そうなスラックスの生地が剥きだしの臀部に擦れ、僅かに前を乱しただけの男に娼婦のように全裸で抱かれていることを

改めて意識させる。

だが、今は屈辱も欲望を燃え上がらせる燃料だった。

長い髪を乱し、彼女は込み上げる官能の昂ぶりに頭を振った。

「どうしたんだい?やっぱり欲しくなったのかな…?。」

嗤笑した男が軽く腰を入れると、たちまち馴染みの深く重い快感が再び沸き上がって来る。

ゆるやかに再び押し寄せてくる快楽に甘い喘ぎを漏らすと、手首から男の手が離れ、結合部に触れた。

限界まで感じきっていた淫芯を伸ばした手でくりくりと揉まれ、同時に後ろからゆるやかに抽送されると、もう保たない。

ひくひくと蠕動する内側を、男が容赦なく巻き込んで入り込み、また絡み付く内側をまといつかせて力強く引き出す。

「嫌っ、またイッて…ああっ…ああ、ダメ、ああああっ…ひ…ああーっ!」

容赦なく襲ってきた強烈な絶頂感に突き上げられ、彼女は絶叫した。

同時に身体の奥深くに感じた熱い迸りが、甘く余韻を広げていく──。




いつの間にか半分意識を手放していたらしい。

胸元にひやりと冷たい物を感じて目を薄く開けると、きちんと身なりを整え直した男が濡れた海綿で身体を拭いてくれていた。

「…自分でやるからいいわ。あっちへ行って頂戴。」

溜息と共に身を起こすと、胸元を覆って海綿を奪い取る。

「腹を立てているのか、アンヌ?私に当たっても仕方ないだろう。素直に反応したのは君の身体だ。それにあの世に行った男が

こんなことを気にするとも思えないが。」

いけしゃあしゃあと言い放つ言葉に、再び悔し涙が溢れる。

「…判っているわ、私の醜い欲望が彼を裏切った。彼はもう傷ついたりはしない、傷ついたのはそれを思い知らされた私の心よ…。」

静かに涙を零す彼女に、男は気にした様子もなく続けた。

「他者との関係など、そんな些事で心を一杯にするから傷つくのだ。君にはまだオペラ座がある…そうだ、君の復帰を祝って

君のためにバレエの小曲を書いたよ。プリマに相応しい作品だ。」

彼は、まだ気付いていなかったのか…。



「エリック、私が戻ってきたのは指導をするためよ…私はもう踊れないわ。」

訝しげな視線を向けてきた男に説明する。

「夫を失った事故で、私の脚も…。日常の生活に支障はないし、教えるくらいは出来るけど…ダンサーはもう無理だわ。」

聞いていた男の表情がみるみる色を失う。

「ああ…なんてことだ…アンヌ…」

蒼白になった彼は長身をがくりと彼女の膝元に折り、冷笑的だった態度をかなぐりすてると声を震わせた。

「すまなかった、君が失った物の大きさも知らずに…。」

まるで彼女の痛みを感じるかのようにがっくりと項垂れて、慰める言葉もないかのように涙を零す男の姿を彼女は黙って見つめた。

天才的な作曲家、演出家、そしてオペラ座に徘徊する幽霊──。

心から彼女の境遇を悼む彼の心に、優しさがないわけではない。

しかし情愛を知らないそれは、こういう形でしか人の痛みが判らないほどに歪み果てているのだ。

「私は大丈夫よ、エリック…」

優しく男の背を撫でながら、彼女は愛しい一人娘の事を想った。

いつの日か、この男にも魂の底から愛する対象が出来るといい。きっと歪みを正してくれるだろうから。

「そろそろ寝なくては、明日は早くから迎えに行かなくてはならない子がいるの…。」


やがて彼の心が愛を求める未来の事を想像し、彼女は微笑した。それが悲劇を生む事など知る由もなく──。



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