206 :名無しさん@ピンキー:2005/07/11(月) 17:52:29 ID:KOj4QnLK

彼の婚約者はあの地下から地上に出た途端に気を失い、それから今まで

床についたままだった。

クリスティーヌのいる部屋に入ると、彼女は以前目を閉じたままだった。

ラウルに一礼すると付き添いの看護婦は立ち上がり、今日も彼女の意識は

回復しないこと、今朝はどうにかスープを飲ませることに成功したことを

告げると、静かに部屋から出て行った。

眠っているかと思えば、悲鳴と共に起き上がり、目覚めてもその瞳には

何も、彼女の婚約者さえ移していないようだったが、婚約者・医師・看護婦・

この家の召使たちの気遣いに申し訳なさげにかなしげに微笑むかと思えば

泣き出してしまうラウルの天使・・・。

ラウルは彼女の手を取ると、赤くうっけつした彼ではない男の指が嫌でも

目に入る。あの男の指の跡・・・。火傷のように彼女の両手首に残ったそれは

彼女が凄まじい力で地下へ連れて行かれたことを物語っていた。

「あれほど君が舞台にたつのをこわがっていたのに、僕はきかなかった。

 許しておくれロッテ」ラウルはクリスティーヌの手首の跡に唇を近づけたが

ふいにその赤い跡が彼ではない男と彼女をつなぐ手錠の跡のように思えた。

彼は刺すような嫉妬を感じて彼女の手首に噛み付いた。

口いっぱいに広がる彼女の肌と血の匂いが彼を惑乱させようとした時、

ノックの音と共に執事が彼に来客を告げた。執事が現れたことに安堵する彼と

どす黒い怒りと焦燥を感じる彼がいた。

ラウルは自分の歯の跡が残る彼女の手首を寝台に戻し、彼は寝室を後にした。

男の指の跡が残るクリスティーヌの手首にゆっくりと血が滲みだすのと同時に

彼女の瞳から涙が流れていたことをラウルは知らなかった。





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