いまだ絶頂の余韻にひくつくそこに、ふたたび己をあてがう。

臀から腰の下に挿しいれた手で、逃れようとする腰を押さえ、一息に貫いた。

「ああ──────っ!」

艶めいた悲鳴のような声をあげて彼女が私を受け入れる。

「クリスティーヌ、うんと可愛がってあげるよ……」

「あぁ……ん…」

激しく頭を振るたび、波打った栗色の髪が乱れて、シーツに広がる。

その髪を一房手に取り、口づける。

「ああ、愛している……、クリスティーヌ……」

「あぁ……ん、エリックぅ……」


先刻の名残りの蜜か、新たに溢れ出た蜜か、くちゅくちゅという水音とともに

抜き差しのたびに流れ出す。

「ずいぶんと濡らしているようだね……、クリスティーヌ……?」

「いや……、いわないで……」

「どうして? 可愛いじゃないか……」

「あぁ……ん、いやあ……」

「ああ……、おまえがあんまり可愛くて、どうにかなってしまいそうだよ……」


私を包みこむ彼女の粘膜が大きくうねる。

逝ったばかりだというのに、いや、逝ったばかりだからなのか、

もう既に絶頂を迎えようとしているらしい。

彼女の肩を抱きしめ、大きく腰を使ってやる。

私の背にまわされた彼女の手が、快感に耐えるよすがを探して爪を立てる。


腰をまわすようにして送り込む。

「ああっ、エリック……! ……おねがい……、あの……」

と、クリスティーヌがおずおずと口を開く。

「おまえが望むなら、どんなはしたないことでもしてやるとも」

腰を入れる角度を変え、奥より少し手前の天井をこすりあげてやる。

「これだろう? おまえの欲しいものは……?」

「やあん……、あんっ、あんっ……」

肉を打つ湿った音に交ざって、彼女の甘く淫らな喘ぎ声が部屋を満たす。

クリスティーヌが脚を私の腰に絡めてくる。

そのあまりに淫らな動きに、くるめくような快感が私を襲い、

彼女のなかにある私自身をよりいっそう奮い立たせる。

「男の腰に自分から脚を絡めるとは……、いやらしい子だな……」

「あぁ……、ごめん……な、さ……」


強く閉じられた彼女の目じりから涙がひとすじ流れた。

その涙を舐め取り、「また泣いて……、辛いのか?」と尋ねる。

「いい、いいの……、エリック……、ああ……」

腰を激しく上下に揺すりながら答えるクリスティーヌの唇を塞ぐ。


私が舌を挿しいれるより早く、クリスティーヌの舌が入ってくる。

私の舌を求めて淫らに動く彼女の舌を絡め取り、強く吸ってやる。

「ふぅ……ん……、んっ……」

嚥下しきれない唾液を口の端から零しながら、涙で濡れた眸で私を見上げて彼女がねだった。

「エリック……、ああ、もう……!」


彼女の背にまわした腕で、心持ち彼女の腰を浮かせる。

彼女の中心に向かってまっすぐに突き上げてやる。

先刻の悦びから醒め切らぬ肉襞が、奥まで貫き通った私にしっかりと絡みつき、

むさぼるように蠕動する。


「わたしを、……手放さないって……、言って……」

「こんなに愛しいおまえを手放せるものか……!」

「だれにも……、ラウルにも、渡さ……ない、って……」

「ああ、誰にも渡さない、渡すものか……、誰にも渡しはしないよ……!」

「あぁ……ん、エリックぅ……」

「クリスティーヌ……」

「おねがい……、あなただけの……も……のに……して……」

「クリスティーヌ、わたしだけのものだ……、おまえはわたしだけの……」

そう彼女の耳元で囁くと、彼女のなかが熱くうねって私をこれ以上ないほど締めつける。


「あ、ああっ! エリックぅっ、あああ───────っ!!!」

絶頂を知らせる啼き声とともに、ものすごい衝撃が私を襲う。

クリスティーヌの反った背を抱え、突き出された胸に顔を埋めながら、

「くっ、」と低く呻いて、私は彼女のなかに箭を放った。

身体の奥深く射られたクリスティーヌが、痙攣しつつさらに私を締めつけ、

ベッドに強く押しつけられている腰を揺らめかして愉悦をむさぼろうとしている。

「あ、ああ……、あ……」

うわ言のように切れ切れな声を上げながら、ひくひくと身体を顫わせ、

絶頂の波間を漂っている彼女のなかで、私自身も長い絶頂を味わった。


荒い息を吐きながら、彼女の上から身を起こし、どさりとベッドに沈みこんだ。

クリスティーヌが隣で激しく胸を上下させながら、半ば意識を手放しているのか、

何も映していないような眸をして横たわっている。

身体を起こし、私の身体の幅の分だけ拡げられたままになっている脚を

そっと閉じてやると、彼女が瞬きをして、私を見上げた。

私に向かって手を伸ばす。その手を取って口づけ、自分の頬に押し当てる。

クリスティーヌが嬉しそうに微笑んで私を見つめてくれる。


ふたたび彼女の横に身を横たえると、クリスティーヌが私の胸に頬を寄せてくる。

くしゃくしゃになった髪を指で梳いてやりながら、時折その髪に口づける。

口づけを落とすたび、頭を上げて私を見つめ、微笑んでくれるクリスティーヌが

愛しくてたまらない。


この私の人生に、これほどの幸福が訪れるとは……。

あまりの歓喜に私はいつの間にか涙を流していたらしい。

「マスター、どうなさったの?」

クリスティーヌが頭を上げ、優しく尋ねてくれて、はじめて気づいた。

涙を拭うこともせず、彼女の頭を胸に抱えながらこう言う。

「あまりに幸福で……。このまま死んでしまってもいいほどに……」

「そんな……、マスターは、……エリックはずっと私のそばに居て下さらないと

いけないわ……、そうでないと私も死んでしまうわ……」

「おまえがそんな風に言ってくれるのは嬉しいが、私はもう充分幸せだ……。

後はおまえの幸せを考えなくては……。私と一緒にいて良いことはないのだから」


今度はクリスティーヌが泣く番だった。

「どうして、どうしてそんなことを言うの? さっき、私を手放さないって、

誰にも渡さないって言って下さったのに……」

「いや、しかし、おまえはせっかく歌えるようになれたんじゃないか。

このオペラ座のプリマドンナになる日も近い。それこそが私の夢だ。

そのプリマドンナが『オペラ座の怪人』と親しくしているなんて……、

決しておまえのためにはならないよ」

「親しくって、そんな……。私たちはずっと一緒にいるのではないの?」

しゃくりあげながらクリスティーヌが問う。

「おまえが? 私と?」

「そうよ、他に誰が居ると思って?」

「……」

シャニュイ子爵、と喉元まで出掛かったが、クリスティーヌの涙に潤んだ眸を見て

言葉を飲み込んだ。


「私、あなたにお迎えに来てもらわなくても、ちゃんとひとりでここに来られる

ようになるから……。 ね? だから、おねがい……」

眠くなっているのか、的外れなことを呟きながら、

クリスティーヌが私の胸に頭をすり寄せてくる。

その頭を二、三度撫でてやると、急に頭の重量が増し、可愛い寝息が聞こえてきた。


重くなった頭をそっと枕に乗せ、ベッドから降りる。

彼女の顎まで上掛けを掛けてやり、椅子に掛けてあったローブを羽織った。

タンスの抽き出しから小さい箱を取り出すと、

彼女を起こさないようそっと部屋を出た。


食卓の椅子に掛け、小箱のふたを開ける。

箱に納められた細い金細工の指環が蝋燭の灯りを映して鈍い光を放っている。


この地下を出て、クリスティーヌと暮らすことなどできるのだろうか?

ふたりの暮らしが立つには一体どうしたらいいのだろう……。

建築の仕事をしたとして、果たして注文がくるだろうか?

あるいは、今まで書き溜めたオペラを買い取ってもらえるだろうか?

そして、そのままオペラを注文してもらうことなどできるだろうか?

その前に支配人どもに数万フランを返さなくてはならない。

この顔で仕事を探すのは、さぞ大変なことだろう。

しかし、彼女さえそばにいてくれるのなら、何でもできる。

いや、できなくてはならない。

…………


その前に……、明日の朝一番に、彼女に跪いて頼むのだ。

この指環を受け取って欲しい、と。

そして、彼女がこの先の一生を共にするのは私だと言って欲しい、と。


クリスティーヌは私の願いを聞き入れてくれるだろうか……。

小箱のふたを閉じ、不安と希望とでうち顫える心のまま、

私は彼女の隣に戻るべく席を立った。









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