「……う……ぅぅ…や、やめぅぅぅ……」

狭く冷たいチャペル内に2人の肌のぶつかり合う音が響く。

クリスティーヌの父親の為に灯された蝋燭の明かりの影で、

2人の絡み合う影が石壁に映し出される。

「た、た助、マ…スぅぅ……」

「ああ、もう…もう……うっ!」


クリスティーヌの奥深くでラウルは己のたけをぶつけた。

力いっぱい抱きしめ、彼女の体をまっぷたつに裂かんとばかりに自分自身を押し込み、果てた。

「…クリスティーヌ…んん……」


果ててからしばらく経つというのに、ラウルはまだクリスティーヌの中にいた。

そのまま、名残惜しそうに、彼女をしっかり抱きしめながらゆっくり腰を押し付け続け揺らしていた。

2人の繋がったままの下半身からは生暖かいものが流れ落ち、

クリスティーヌの尻や背中までじわっと流れて伝っていった。

クリスティーヌは、その液体の温かみに、ただ泣いていた。


『マスター…』と一言、声を出さずにつぶやき、涙を流し瞳を閉じた。




ようやくクリスティーヌの体を開放したラウルは、丁寧に彼女の身なりを整えさせる。

ブラウスはボタンがはじけてしまったので、羽織らせただけの上に、

自分が着ていた革のコートを着させる。

あまりの出来事と痛みで震え、涙は涸れ果て呆然と座り込んでいる

クリスティーヌの頬と髪をラウルは優しく撫でた後、

自分も服装を整えながら、チャペルの壁の隅々に目を走らせる。


先程自分が投げて転がった金の指輪を見つけ拾い上げ、

「この指輪を返して欲しいかい?」

と彼女に問いかける。

ラウルの大きなコートの前をかき合わせ、

衿を握り締めて座り込んでいるクリスティーヌが彼に振り向く。

静かに縦に頷く。


「僕を“愛している”と言うんだ」


「この指輪は君に返すよ、

でもそのかわりに、僕の事を愛していると言ってくれないか?

僕は君の口から“愛している”なんて一度も聞いたことが無いよ。」


「一度で良いんだ、聞かせてくれないか、クリスティーヌ」




「クリスティーヌ?さあ、聞かせて…」


かがみ込み、また彼女にゆっくりとにじり寄り、

行為をされる前と同じ、瞳を射抜くような鋭い視線で見つめる幼馴染みに彼女は脅え、

「…あ、愛して……」

クリスティーヌの声はひどくかすれて、震えていた。


「あ愛している、わ……ラウル…」


「…クリスティーヌ……!

 やっと、やっと言ってくれたんだね、…嬉しいよ!

 僕も、僕も愛しているよ、クリスティーヌ……」

ラウルは優しく嬉しそうな表情でクリスティーヌを抱きしめ口付けをするが、

彼女は唇を震わせまた涙を流し始めていた。

その涙が彼の頬に付いた時、ラウルの表情に陰りが見え始める。


「…そんなに指輪が大事なのかい…?

この指輪を返してもらう為に、そんな嘘をつくのかい、クリスティーヌ…」


首に片手をかけ、喉元の親指にやや力を入れる。

「だめたよ、いけないよロッテ、そんな嘘をついちゃ…

 どの声がそんな嘘を言うんだい…」

「うぐっ!ぐっっ!!!」




今までに聞いたこともない酷い唸り声を彼女が上げたところでラウルはハッと我にかえり、

手をはなす。

「ああっ、ごめんよクリスティーヌ!大丈夫かい?

  …力を入れすぎたかな、ごめんよ本当に」

体を二つに折ってひどく嘔吐をするような低い呻き声を漏らすクリスティーヌの背中と肩を撫でる。

彼女はわずかに首を縦に振り、

冷たい石畳のその場にうずくまり口元と喉を抑え、まだ嗚咽を漏らし続けた。

普通ではない呻き声を発している事に、

背中をさすり続けているラウルは気がついていない。


彼は金の指輪を、クリスティーヌが父親に祈る為に点けた蝋燭の火にかざし、

やや黒く変色し始めたところで手をはなした。

その灯りをラウルは、指輪が蝋にまみれ見えなくなるまで見つめていた。


まだ石畳にうずくまって苦しんでいるクリスティーヌに振り向き、


「僕たち、正式に婚約しよう。

         いいだろうクリスティーヌ?」




「マダム・ジリーの御紹介者のお方、大変お待たせいたしました。」

私はパリ市内の小さな宝石店にいた。

クリスティーヌと揃えにする金の指輪に、やっとよく似た既製のものを見つけたが、

やや小さすぎて私の指にはそのままでは合わなかった為、

伸ばし加工するために時間がかかってしまっていた。


シャニュイ子爵と侯爵家の令嬢との結婚話が進んでいることを、近いうちに

クリスティーヌは知るだろう。

その時クリスティーヌは、やはり悲しむのだろうか?

そう考えると少し胸が痛む。


帰りの箱馬車の中でケースから指輪を取り出し、自分の左手の薬指にはめてみる。

私のこの指輪を見た時、クリスティーヌはきっと可愛い笑顔を私に見せてくれるだろうと信じている。

それを想像しただけで私は幸せに包まれるのであった。




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