100 :ファントム×クリスティーヌ(ある夜):8:2005/09/29(木) 01:56:17 ID:ADLYBz4Y

彼女の背を支えながら、繋がったままふたたび押し倒し、激しく腰を入れる。

狙いを定めて送り込む。激しい摩擦に熱く蕩ける肉の感覚がなまなましく伝わってくる。

その肉をさらに責め苛むように、さらに強引に送り込んだ。

内襞の絡みつきようが甘くそそるような感じになってきている。入り口が締まる。

つい先刻、頂上近くまで昇りつめ、そこから引きずり降ろされたばかりのクリスティーヌの身体は、

私に送り込まれるたびに確実に高みへと昇っていっているらしく、顔を紅潮させて荒い息を吐きながら、

ひたすら切ない眸で私を見つめて涙をこぼしている。


「あっ、ああっ、……マ……スター……、もう、もう、ゆる……し、て……」

これ以上ないほど眉根が寄り、唇を戦慄かせてクリスティーヌが達した。

声を絶ったまま、背を弓なりに反らせ、罪深い戦慄の水底をたゆたうクリスティーヌのそこから己を引き抜くと、

彼女の白い腹の上に暗く滾った熱情を放った。


息遣いも荒いまま、しどけない様子で横になったままのクリスティーヌの眸から、

大粒の涙がこぼれている。

掛ける言葉もなく、ただじっとその様子を見ていると、彼女が私を振り仰いで、

「どうして……?」と聞いた。

どうして、とは……。

そう聞かれて、おまえが私を愛してくれないから、おまえが私ではない他の男を愛しているから、

……そう答えよというのか。

心などなくてもいい、他の男を愛していてもいい。

そう思ったはずだが、やはり私の心は妻への不信感で確実に蝕まれていっている。

黙ったまま彼女の頬を涙が幾筋も流れていくのをただ見ていると、クリスティーヌの手が伸びてきて、

私の手に触れた。思わず手を引くと、傷ついたような眸をしてはらはらと涙をこぼした。

そして、私に振り払われた手で涙を拭った。


クリスティーヌの隣にいたたまれず、ガウンを引っ掛けると、食堂に立っていって水差しとグラスを持ってくる。

最初の晩にもこうやってクリスティーヌのために水を取りに行き、そしてあの忌々しい光景に遭ったのに、

同じことをすれば必ずあれを思い出すのに、なぜかいつも同じように食堂に行ってしまう。

自分を苛めてみたいのか、同じことを繰り返せばいつかと違う光景を見られると思っているのか……、

自分でもわからない。

クリスティーヌに水を飲ませる。

手で涙を拭いながら、「あまい……」と呟いて水を飲む彼女の白くほっそりとした喉を見つめる。

クリスティーヌが差し出したグラスを受け取り、そこにふたたび水を満たして飲み干す。

その様子をじっと見上げていたクリスティーヌと目が合う。

しかし、私はそれに皮肉っぽい笑みでしか応えられず、そのまままた食堂へと引き返した。

扉のところで振り返ったとき、彼女は新しく滲んできたらしい涙をそっと指で払っていた。


水で濡らした海綿と真新しい布を持って戻る。

黙ったまま彼女の汗や腹についた体液を拭ってやっていると、ふたたびクリスティーヌが涙をこぼし、

こう言った。

「マスターとこうなることをずっと夢見ていたのに……」

思わずかっとなって言い返す。

「嘘をつけ。だったら、どうして私に抱かれて泣く? おまえを抱いているのが私だから、

あいつではないから、だからおまえは泣いているんじゃないか。ずっと、だと? おまえはあいつと

婚約までしていたじゃないか、あいつとこうなることを夢見ていた、の間違いだろう? え?」

「マスター……」

「あいつを愛していたんだろう? そうだろう? 答えろ、クリスティーヌ」

「……愛していましたわ」

「……今でも愛しているのか」

「……いいえ」

「はっ、私も舐められたものだ。では、おまえがいま愛しているのはどこの誰だ、

言えるものなら言ってみろ」

「マスターですわ……」


怒りに顫えて持っていた海綿を投げつける。落ちた海綿からじわりと水がしみ出て床を濡らしていく。

「どうして信じてくださらないの? どうして? 初めてのときはあんなに優しかったのに……」

「その翌日、おまえはあいつに助けを求めていたな……」

あの夜、思わずあの男の名を叫ぼうとしたクリスティーヌの泣き顔が思い出された。

私が愛されていないと確信した瞬間だ。


しかし、クリスティーヌは私の問いには答えず、静かに言った。

「ラウルのことは忘れます、だから……」

「忘れる、だと? おまえは今だってあいつを愛しているじゃないか!」

「マスター、わたしはあなたに嘘はつきたくありません。確かにラウルのことは愛していました、

だから婚約したんです。今でもまだその気持ちが残っていないとは言いません……」

ああ、やはりそうなのだ……。聞きたくなかった言葉に思わず顔を背ける。

「でも、忘れます。わたしにとって真実大切なのはマスターです……。

ずっとずっとお慕いしていたんです、愛しているんです……、信じて……」


私と子爵と両方を愛しているのだというクリスティーヌの理屈は理解できないではない。

確かに私のことも師としてずっと慕ってきてくれた。

しかし、彼女が真実愛しているのは私ではなく子爵なのだということが耐えられないのだ。

否、彼を愛しているのなら、それはそれで良かった。

あのときに私の言葉を信じて子爵を選んでいたのなら、私だとてふたりに手出しはせず、

この寂しい地下でふたりの行く末が幸福であるよう祈っていただろう。

私が心底悲しいのは、クリスティーヌが私を信じてくれなかったこと、私を信じられずに

ここに残ったこと、それでいて、子爵より私を愛していると強弁していること、そのことに尽きた。


「だが、おまえが真実愛しているのは、私ではなく子爵だろう……?」

「どうして……、どうして信じてくださらないの……」

シーツを掴んで涙を溢れさせているクリスティーヌに向かって言う。

「私だっておまえを信じたい、私を愛していると言ってくれる、その言葉を信じたいよ……。

だが、一体、どうやって信じたらいいのだ、お願いだから信じさせてくれ……」

「どうして……、」

思わず叫んだ。

「じゃ、なぜ最初の晩にあいつを呼んでいたんだ! 

二晩目はいい、確かに私はおまえに手荒な真似をしたからな……。

だが、最初は? 優しかったのにと言っていたな? その最初の晩に、なぜあいつを呼んでいたんだ!」

「……いつ……?」

「……いつ、とは言ってくれるじゃないか。今だよ。今と同じ、私が水差しを持って戻ってきたとき、

おまえはあいつの名前を呟いていたじゃないか……」

我知らず手を口元に当てたクリスティーヌの眸が、大きく見開かれた。


……とうとう言ってしまった。

驚きに瞠られた彼女の眸を見て、あれが自分の見間違いではなかったことを知る。

嘘でもいい、そんなことは言っていないと言って欲しかった。

あの男の名など呼んだことはないと言って欲しかった。

食堂の椅子に掛け、水差しの滑らかに光る表面を見ながら、私は溢れる涙を止めることができなかった。

寝室からは、クリスティーヌのすすり泣きが聞こえる。

悪夢のような新婚生活だ。


途切れなく聞こえていたクリスティーヌのすすり泣きがいつしか止み、そっと寝室を覗いてみた。

涙で汚れた頬のまま、寝入ってしまったクリスティーヌに上掛けを掛けてやる。

眠りながら泣いているのか、時々すすり上げるようにしている彼女が哀れで、

横に座って乱れた髪をそっと撫でてやった。

クリスティーヌがわずかに身体を動かして、薄い肩が顕わになる。

無造作に投げ出された彼女の手が、シーツの上でぴくりと動いた。

その小さな手に触れてみる。

己の人差し指に彼女の指を掛け、親指の腹で小さい爪をそっと撫でる。

薄桃色をした、真珠のように小さい爪が形よく並んでいる。

私にとっては、この世で最も貴重な宝石だ。

小指の爪など、己の無骨な爪の何分の一なのかわからないくらい小さくて、

あまりの愛しさにまた涙がこみ上げてくる。

しばらくそうやって彼女の爪を愛しんでいたが、手の先が冷たくなってきたので

体温で温まった褥のなかにその手を戻してやり、肩まで上掛けを引き上げてやった。

隙間ができないよう軽く上掛けを叩いてやる。


泣き疲れて眠っているクリスティーヌの寝顔を見ていると、ますます涙が溢れてくる。

ああ、やはり思ったとおりあの男を愛しているのだ……。


しかし、私を大切に思ってくれているというのも嘘ではないのだろう。

結婚前には愛し合っていなかった男女が、結婚後に熱烈に愛し合うようになることだって

世間にはざらにある。

そう考えれば、出発点が思慕であるだけ、それが愛に変わることだってあるやも知れない。

しかし、今夜のようなことを続けていれば、愛を得るどころか、思慕までも失うのはわかっているのに、

私は自分を抑えることができなかった。

抑えることができないまま、一番知りたくなかったことを知ってしまった。


私が欲しいのはクリスティーヌの愛だ。愛を得られないのは確かに悲しい。

だが、それ以上に悲しいのは、この十年で培った信頼を踏みにじられたことだった。

私が信じてきたものとは一体何だったのだろう……。


明日から、私はもっと彼女につらくあたってしまうのだろうか。

できるなら、私だって彼女に優しくしてやりたい。

何年もの間ずっと望んできたように、彼女を優しく包み込み、慈しみ、大事にしてやりたい。

もしも、もしもこの私に妻ができたら、うんと大事にして、可愛がって、

世界中の誰よりも幸福にしてやりたいとずっと考えていた。

日曜には手を繋いで公園を散歩し、週日は手品やトランプを見せてやり、

いつも楽しく笑わせてやろう、そう思ってきた。

この何年か、その取りとめもない想像のなかで、いつも私の隣にいるのはクリスティーヌだった。

この十年、夜ごとに稽古をつけながら、どれほどその小さな身体を抱きしめ、

優しくしてやりたいと思ったことだろう。

同輩にいじわるをされたと言っては泣き、踊りの先生に怒られたと言っては泣き、

よそでは決して涙を見せることはなかったが、私の声に向かって一日にあったことを報告しながら

この子は本当によく泣いた。

あの頃、私に慰められ、あるいは諌められて泣きながら寝入ったクリスティーヌを

自分のもとに連れてきてしまいたい衝動を抑えるのにどれほど苦労したことか。

その夢がようやく叶ったのに、この有様は一体、どうしたことだろう。



ベッドから降り、クリスティーヌを見下ろす。

彼女が私だけでなく、誰をも愛しておらず、ただ単に私への気持ちが熟すのを

待つだけなら、私だって辛抱強く待てるのだ。

しかし、クリスティーヌの心にはかつて婚約していた男が今でも棲みつき、

彼女がその男のために心の一番奥底の、誰にも触れられない一番綺麗な場所を

空けてあるのだということに、私は耐えられない。

私がクリスティーヌと作り上げてきた信頼が、砂上の楼閣だと思い知らされたことに、

私は耐えられない。

あの男はクリスティーヌの心の楽園に住み、私は砂上の楼閣に住んでいる。

しかし、私が欲しいのはその楽園への鍵、私が望むのはその楽園の住人になることだ。

おまえがそれを拒む限り、私はおまえを愛さない。





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