194 :ラウル×クリス(幻影):2005/10/09(日) 01:51:19 ID:GinZHNjA

・・・「マスカレード」で初めて“怪人”と対峙して以来、ラウルはクリスティーヌから離れることが出来ずにいた。

もちろん身内からは非難されたが、お互いを魅入られたように見つめ合う二人の姿を目にしては、とてもオペラ座に彼女を一人で長く置いておくことなど出来なかった。

 クリスも、指輪を奪われ、ラウルまで巻き込んでしまったことを辛く思っていた。

気持ちが落ち着く筈もなく、食事もあまり取れずにいる。


 ひどい悪寒のため、昼間から寝込んだ彼女の部屋に、ラウルは来た。

うなされて目覚めたクリスティーヌの手を、彼はしっかりと握る。

「・・・あ、ラウ・・ル?・・」

「僕だよ、分かる?・・・何か悪い夢でも見たのかい」

気遣う彼の視線から、つい顔を背けるクリス。

俯くその表情を見ると、余計に心配がつのった。

(もしかして・・・あいつの夢を)

でも聞けずに、差し入れの砂糖菓子や熱いお茶を勧める。

しばし談笑した後、何となく気まずい雰囲気が流れた。


 仕方なく読みかけの本を開くラウルだが、同じページを繰り返し辿るばかりで、

ちっとも頭には入ってこない。 気に掛かる事は、ただ一つ。

(これからどうすればいい? そう、彼女をここから連れ出してしまえば・・)

彼は、思い切って聞こうと顔を上げた。

(本当に、あの恐ろしい男が、君の言っていた音楽の天使?

 君は、ずっとあんな奴を慕っていたと?)


 クリスティーヌはショールを羽織り、窓辺にいた。

どんよりした空。 舞い散る枯葉。 巣に戻る小鳥たち。

放心して眺める彼女に、さっと明るい光がさした。

 厚い雲の切れ間からの、夕刻のオレンジ色の陽差しが彼女を包む。

「綺麗ね・・・・」

目を細め、片手を顔まで持ち上げたとき、ショールがふんわりと床に落ちた。

薄い部屋着を透かし、しなやかな肢体のシルエットが浮かぶ。





 ラウルは問いかけを忘れ、光の中の彼女を見つめていた。

「綺麗なのは君だよ、クリスティーヌ・・・」

歩み寄り、そっと後ろから抱きすくめる。

振り返り、はにかんで微笑む彼女を見て、心から愛おしいと思った。

髪に、肩に、優しくキスを繰り返す。

そっとその体を自分に向かせ、頬に、耳に、何度もキスする。

少し、痩せたようだ。 じっと彼女の瞳をのぞき込むラウル。


 可愛いロッテをやつれさせたのは・・・・

そう思うと、自分の中にあった憎悪が、強くなっていくのを感じた。

「ラウル・・・?」

彼の顔が強ばっていくのを見たクリスが、不安そうに尋ねる。

頬に触れた彼女の手を包むように握り、もう片方の手で

ラウルはクリスの部屋着の前を開けていった。

「!・・・あ、」

「僕が、必ず君を守る・・あの悪魔から」

首筋、胸元を優しく愛撫しながら衣服を取り去る手は、少しも強引ではない。

下着だけになったクリスの背中に、腰に、次第に熱くなる手が滑っていく。

「ふっ、・・・うぅん・・」

「何も怖がらなくていい、僕の大事な・・」


 彼女の肌の香りに、気持ちよく体が痺れていく。

ベッドに腰掛けさせ、膝から太腿へと指をすすめる。

その滑らかさが、たまらなく心地よい。

膝頭にキスすると、あぁん、とクリスが声をあげて身を捩った。

白く透き通るような肌・・明るい光の中で、微かに震える脚。

こんなに間近で、はっきりと見たのは初めてだった。

首筋や胸元とはまた違う艶めかしさ。

 ラウルは我慢の限界だった。 軽い力で彼女をシーツに押し倒す。

「はぅ、・・あ、ラウ・・ル!」

僅かに抵抗するのも構わず、その足首、ふくらはぎ・・・

頬ずりし、暖かい掌と指先で 優しく強く愛撫する。


 あちこちにキスされながら、クリスはぼんやりと「あの夜」を思い出していた。

ファントムの棲む地下の暗い部屋、気絶して運ばれた、あの時のこと。

ふと気付くと、ファントムが自分の脚に柔らかく、熱い唇で何度も・・・

 あれはただの夢だったのか、それとも現実だったのか?

分からないけれど、思うだけで体がひりひりと熱くなるのは、確かなのだ。





「あぁ、お願いよラウル、・・やめ・・」

「・・いや、やめない」 きっぱりと言い切り、上着を脱ぎ捨てるラウル。

「でも、・・誰かが・・」

「誰に知られても構わない、僕はみんなに知って欲しい位なんだ」

 その言葉で、レースから透けるクリスの肌が、ほんのりと赤くなる。

明るい部屋の中で恥じらう彼女の姿が、余計にラウルを煽る。

腰から胸をなぞりあげると、高い吐息が漏れ、首を反らす。

細い顎先に舌で触れ、ぽってりとしてきた唇を見つめるラウル。


 食らいつくようなキスをした瞬間・・・「誰か」が彼の首を絞めあげた。

「!!・・・うぐっ、・・・」

弾かれたように体を起こす。 息が苦しい。しかし二人の他には誰もいない。

驚いたクリスの耳に、「あの声」が聞こえてきた。


  ・・・・クリスティーヌ・・・・


 今度は彼女が身を起こす番だった。 あちこちに視線を走らせる。

はっと眼に止まったものは・・・赤い薔薇。

ファントムが黒いリボンを結んで、一輪ずつ贈った薔薇。

やっと息を整え、彼女の視線の先を辿るラウルにも、それは見えた。

顔を蒼白にして眼を見張るその様子から、送り主が誰かは容易に分かった。

黒く朽ちたもの、まだ瑞々しく咲いているもの。

 激しい嫉妬と怒りに、花瓶ごと床に叩き付けようとするが、そのまま崩れ落ちる。

「ラウル、ああ、」急いで駆け寄るクリス。

しかし、彼は返事も出来ないほどの頭痛に横倒しに倒れた。

気を失った彼の首に、太い縄の跡を見た彼女は、声にならない悲鳴をあげた。


 一部始終を、地下の奥深くから冷笑して眺める影があった。

「貴様になど、クリスティーヌを渡すものか・・」

その笑い声は、やはり彼女にも聞こえていた。 微かに、微かに・・。

  ・・・駄目、逃げられないわ・・・


 正気を取り戻したラウルを無理に部屋から追い出し、クリスは一人震えて眠った。

浅い眠りの中に、ファントムとラウルが代わるがわる現れる。

 暖かい陽差しのような恋人。

 闇の中、凍り付く視線と炎の力を持つ男。

夢と現実の境が無くなった事に怯え、しかしどちらも欲する自分が分からずにいた。





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