371 :楽屋にて :2005/10/24(月) 01:03:19 ID:nPMI2aim

ハンニバルの公演初日、懐かしいロッテと運命的な再会をした私は、

ひと目で彼女に心を奪われてしまった。

幼い日の小さな恋人であった彼女が美しく成長し、

まさかオペラ座の歌姫として私の前に現れるとは…

舞台の彼女の素晴らしく澄んだ歌声、そのなんと無垢で清純なことか!

白い衣装が若く清楚な彼女にとてもよく似合って、

まるで名画から抜け出してきたかのような美しさだった。


昨日は再会を果たしたものの、あいにくプリマとなった彼女を公演後、

食事に連れ出すことには失敗した。

彼女はそのあたりの尻の軽い女達とは違うのだ。

そんなクリスティーヌだからこそ、彼女のことが頭から離れないのかもしれない。

今日の舞台の彼女は昨日とはまた違って、歌にもその姿にも艶やかさが加わり、

大人の色気すら感じさせた。

今日こそはクリスティーヌと楽屋でゆっくりと語り合いたい。

出来ることなら一緒に外で食事をしたいものだが・・・



混み合った通路をようやく抜けて楽屋前にたどり着くと、扉の前にマダムジリーが立ちはだかり、

訪れる者全ての楽屋への入室を拒絶していた!

他の者ならいざしらず、幼なじみでオペラ座の支援者である、

この自分まで締め出すとはどういうことか?

クリスティーヌは私に好意を持っていることはあっても、嫌っていることなどあろうはずがない。

ねばってみたが取り次いではもらえず、納得出来ない思いで花束をマダムジリーに押し付け、

通路を表に向かった。


クリスティーヌにひと目会うこともかなわないとは!

頭に血が上り、周りに眼もくれず馬車に向かっていたラウルだったが、

クリスティーヌ、という名前だけには耳が敏感に反応した。

衣装のまま引き上げる踊り子の1人が別の踊り子に話していた言葉。


「クリスティーヌは昨夜、とうとうベットに戻ってこなかったのよ。

 いったいどこで夜を過ごしたのかしらね?」

「あの、パトロンの彼のところじゃなくて?」


嬌声と共に遠ざかっていく踊り子達。

ラウルはその言葉をきいて呆然と立ち止まった。

オペラ座の踊り子達は、オペラ座の中で集団で寝起きしている。

昨夜といえば、クリスティーヌの初舞台。

彼女は昨夜、私の夕食の誘いをいともあっさりと断ったのだ。


踊り子の言う「パトロンの彼」とは紛れもなく自分のことだろうが、

もちろん私はクリスティーヌとひと夜を過ごしてなどいない!

(そうなれたらどんなに嬉しいことだろう)

いったい彼女はどこで誰と昨夜を過ごしたというのか?

それよりも今、彼女は本当にあの楽屋にいるのだろうか?


いても立ってもいられなくなった私は楽屋の鍵穴を覗きたい衝動にかられたが、

扉の前にはマダムジリーがいた。

私はクリスティーヌの楽屋の窓を大きな楡の木が覆っていたことを思い出し、

出入り口に用意されていた自分の馬車を無視して、オペラ座裏手の楡の木に向かった。


楡の木は楽屋の窓の高さよりはるかに大きく、

上って部屋の様子を伺うには十分な枝振りだった。

(もっと近ければ枝から窓へ飛び移れるのだが)

子爵ともあろうものがオペラ座の歌姫の楽屋を覗く為に夜の木登りとは

家族に知れれば恥さらしもいいところだったが、今の自分は確認せずにはいられない。

今夜は満月だったが、幸い雲に隠れてあたりは暗く、人通りもない。

一番下の枝に足をかけると、幼い頃から鍛えた体で難なく目当ての枝まで登った。



彼女の楽屋にはカーテンが引かれていなかった。

部屋にはろうそくが灯り、奥の化粧台の前で、クリスティーヌがゆったりと髪を梳いている姿が見えた。

舞台の衣装から、もう化粧着に着替えていた。

(彼女はやはり楽屋にいた)

ほっとすると同時に、正装のまま木を駆け上ってきた自分がとても滑稽に思えてきた。


降りようと思いながらも、楽屋で1人寛いで髪を梳くクリスティーヌについ見とれてしまう。

白い薄いレース地の化粧着姿の彼女。

誰かに見られているなど、思いもよらないのに違いない。

髪を片側に寄せる仕草、その白いうなじの眩しさ。

自分が何処にいるのかも忘れて、見入ってしまう。



と、クリスティーヌが楽屋の奥を振り向いた。

誰かが楽屋に入ってきたらしい。

・・・?出入り口からでなく、どこから誰が来たというのだろう?

そのときの彼女の、はにかむような笑顔。

化粧台の椅子から立ち上がると、嬉しそうに奥へと数歩移動する。


見えにくいのでこちらも少し場所を移動した。

そこに見えたのは・・・。

背の高い黒いマントの男だった。

クリスティーヌは薄い化粧着のまま男に近付くと、その胸に両手と頬を寄せた。

男は彼女を両手で包み込む。

そして彼女の髪に顔を埋め・・・その男の半面は白いマスクで覆われていた!



信じられないものを目にして、私は気が動転したまま何も考えられなくなっていた。

目の前に繰り広げられる光景を、ただ呆然と見ているだけ。

2人は一度離れて見つめ合い、ゆっくりと唇を合わせていった。

彼女の腕がするりと仮面の男の首に巻きつき、

男の腕は彼女のうなじと腰を抱きしめている。

やがて仮面の男はクリスティーヌを抱き上げると、寝椅子の上にその身体を横たえた。


薄い化粧着で寝椅子に横たわるクリスティーヌ。

私のところから、少し横を向いている彼女の全身を見渡すことが出来た。

ああ、彼女はなんて美しいのだろう!

今の状況を理解出来ないまま、その美しさに感動してしまう。

が・・・突如寝椅子の向こうから黒革の手袋をした手が現れると、

その手が化粧着の裾をひらりと膝上まで捲くった。



「!!」

その手は彼女の膝の内側に入り込むと、そのままゆっくり内腿へと上へ移動していく。

手は化粧着のスリットの中に消え、彼女が左右の足をこすり合わせるようにうごめかせるのが見えた。

仮面の男は彼女の首筋に唇をつけていた。

クリスティーヌはうっとりと眸を閉じ、半開きになった唇からは熱いため息が出ているかのようだ。

皮手袋の手はやがてガーター付のストッキングと共に現れた。

あの男は彼女のストッキングを脱がせていたのだ!


左右のストッキングを取り去り、足元へ投げ捨てると、

仮面の男は自分の黒革の手袋も投げ捨て、再び化粧着の裾を捲り上げた。

スリットいっぱいいっぱいのところ、クリスティーヌの内腿までがあらわになる。

滑らかな白い素足はゆったりとくの字に曲げられ、すこしずらして重ねられている。

ああ、あの男は素手で彼女の肌に触れるつもりだ。

何故彼女は何も抵抗しないのだろう?


その時、雲に隠れていた満月が姿を現した。

薄暗いクリスティーヌの楽屋の窓に光が差し、寝椅子の彼女の姿がはっきりと見えた。

眸を開けた彼女が、仮面の男に何か言っている。

「こんなに明るくては恥ずかしいわ」

おそらくそんなところだろう。


仮面の男は(私が覗く)窓に近付くとカーテンに手をかけた――

と、男がこちらに顔を向け、そのブルーともグリーンともいえない薄い色の眸が細まった――


楡の木の後から満月の光が差し込み、私の姿は窓からは逆光のはずだが、

見つかった――?



仮面の男は顎を引いて唇の片側だけで微かに微笑んだように見えた。

カーテンをほんの少しだけ引くと部屋の奥に引き返し、

クリスティーヌに何か言ってから、蝋燭の灯を落とした。


もはや木の上で馬鹿みたいに楽屋を覗いている場合ではなかった。

一刻も早く地上に降り、馬車を駆ってこの場を去るべきだ。

が、身体が固まったように動かない。

彼女の楽屋を見ることをやめる事ができない。


カーテンが少し引かれたため、寝椅子の半分が見えなくなったが、

蝋燭を消しても月明かりで中の様子はわかる。

仮面の男が寝椅子に近付くと、程なく、化粧着の上着が足元に投げられた。


そして彼女の脚を撫で上げる手―、その手はスリットの奥にまで伸び、

たくし上げた裾から彼女の小さな下着の中に入っていた。

腰を引き、脚をすり合わせて微かに抵抗する彼女の仕草――

下着の上から男の手を

「ああ、だめよ」

とでも言いたげに押しとどめようとする彼女の白い手。指が震えている。

下着の中をまさぐる男の手――

白い脚がなまめかしく捩り合わされていく。


ああ、クリスティーヌは今、どんな表情でいるのだろう?

クリスティーヌの白い手は、今やたくし上げられた化粧着の裾を、

何かに耐えるかのように切なげにつかんでいた。

すべらかな脚は時間と共に徐々に開かれていき、寝椅子を蹴るような仕草をし始め、

やがて、両脚を伸ばすと数秒静止し、ぐったりとした。


彼女は、あの仮面の男の手によって逝かされたのだ―。






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