526 :名無しさん@ピンキー:2005/11/03(木) 10:39:14 ID:fVivvdiL

”どちらを選んでも、彼の勝ちにしかならない”

そのとき僕は、図らずも真実を言い当てていたことになる。



彼女を妻にして数ヶ月がたつ。

彼女は僕を愛していると言い、その言葉にも瞳にも嘘はない。

しかし、彼女自身も気付いてはいないのだ。


目を閉じると頭の奥を赤い炎が焦す。忌まわしい舞台、ドンファンの勝利。

あの男の浅黒い手が彼女の白い肌を這いまわる。

その指に導かれるように彼女は目を閉じ、微笑むかのように唇を開き、

蕩けたような溜息を漏らす。

男の歌は彼女の素肌を撫で、彼女を解き、内へと入り込み、彼女の中で蠢く。

彼女の声もまた男に応え、迎え、絡みつき、締め上げ、混じり合い、

一つになって音にならない悦びの声をあげる。

訪れる静寂の中、力を失い男の腕に支えられる彼女の顔は、

快楽の残滓を貪るような、恐ろしいほどに淫蕩な表情を浮かべていた。

あの場で、確かにふたりの魂は淫らに交わっていたのだ。


僕の下で彼女は、僕の名を呼びながら昇り詰める。

小さな叫びを上げて頭をのけぞらせるその表情は、

あのときと同じものだった。


”クリスティーヌ…クリスティーヌ…”

影にこだまするような声を聞いた気がして、半身を起こす。

辺りを見回しても、カーテン越しの薄い星明りが静かに部屋を照らすのみ。

全身の鳥肌を夜気のせいと思い込もうとし、

改めて妻の隣に横たわったとき、その唇が微かな笑みを浮かべる。

”…クリスティーヌ…”

声に応えるように、その笑みは深くなる。周りの薄闇が急に重さと密度を増してゆく…。


僕が彼女の中に放つものは、いずれ彼女の内で実を結ぶだろう。

…あの男が彼女の中に残したものは、一体何を生み出すのだろうか?

「オペラ座の怪人」は消えてしまったが、彼の存在は彼女と共に続く。

そしてあの男の影ごと、僕は彼女を愛してゆく。

そう決めたのだから。




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