630 :ファントム×クリスティーヌ 寝物語 :2005/11/08(火) 19:48:00 ID:tlSNfpov

「生まれ変われたらいい」

幼い時分、一度だけ呟いてしまった言葉。

「そんなあてつけ二度と言わないで。母親を侮辱するなんて、その忌まわしい顔だけでなく、性根まで腐り切っているのね」

それを聞きつけたプライドが高く癇癪もちの母親に、こっぴどく打たれた。

何もあなたを責めたわけじゃない。

この醜い顔を持つ肉体を捨て去り、新しい身に収まることが出来たなら、あなたからキスを貰えやしないかと思っただけ。

美しい母。

もし一度でもキスを貰えたなら、生まれ変われたらなんて口が裂けても言わない。

それが刻印された身体を手放せるわけがない。

例えそれがどんなものであっても。


「じゃあ、マスターをすっかり捕まえておくためには身体中にキスをしなければいけないのね?」

それまでファントムに寄り添ってベッドに横たわっていた温かな塊が、身を起こして微笑む。

何を言い出すのやら。

自分が愛しい少女の身体に口付けるのと同じだけ、彼女も自分の身体にキスをしたがるのだから、もう刻印がされていない箇所などないのだ。

それは彼女が一番よく知っている筈。

「もう貰っているよ」

「いいえ、まだ安心できないわ。一緒に考えて下さいな」

彼女の眼は真剣そのもので、それが返ってファントムを追い詰める。

先ほど乞われるままに、つい話してしまった寝物語には少し重過ぎる自分の過去。

それを少女特有の無邪気さで、からかわれているのだろうか?

彼は観念したように言った。



「クリスティーヌ…私には思いつかないよ」

「まあ、頼りにならないわ!マスター」

つんと済ました顔が次の瞬間、笑みに変わる。

「もう自分で探してみます。よく見せて下さいな」

そう言って、白い裸体にのしかかられる。

少女は彼の身体にまたがり、彼を見下ろす。

それからふと表情を変えて、ファントムの頬に優しく手をかけた。

「ねえ、マスター…お母様も寂しかったのよ。誰だって大切な人が生まれ変わりたいなんて言ったら、悲しいもの…」

それは彼女の考えた悲しく優しい物語だった。

真実は決してその通りではなかった事を、ファントムはよく知っていた。

「私にはそんな事おっしゃらないわよね?だって…」

「クリスティーヌ…」

クリスティーヌはファントムにそれ以上言葉を発する隙を与えず、手始めとばかりに彼の唇に自分の唇を重ねたのだった。


結論から言うと、これまで彼女のキスを受けた事がないところは、全部で3箇所あった。

これでもう完全に彼の身体には彼女の刻印が刻まれ、例え悪魔に取引を持ちかけられたとしても、代償として手放せるものはただの1つもなくなってしまったのだった。

もしその夜に得たものを紙に書き付けるとすれば、彼はこう書くだろう。


―完璧な身体と、美しい物語(それが真実でなくとも)と。




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