662 :エロなし、ネタ :2005/11/09(水) 22:44:10 ID:hlHY9b5B


危機的状況だ。ある意味では今まで生きてきた中で一番の。

クリスティーヌは猜疑と不審を力いっぱい表しながら

私を見つめている。

嫌な汗が背を伝うのを感じる。

危機的、状況だ。


抱き上げたときストッキングをカフスに引っ掛けたのは謝ろう。

その所為で、非常に嫌な具合に破けてしまった。

しかし、裸足で歩き回ったので、足先の方も破れていたのだ。

…それも私の所為か。だがそれはいい。

とにかく破れていたものはしょうがない。

見苦しいし、起きたときに不愉快だろう。だから脱がせた。

ガーターの金属が当ると痛くもあろう。だから外した。

ただ外し方が良く分からなかったので、結果的に金具部分を壊してしまったが。

そこには善意以外の何物もなく、強いていえば

父が娘を気遣うような愛情があっただけだ。



私の失敗は、その後すぐに曲のアイデアが浮かび、そのまま作曲に没頭していた点だった。

私の仮面を剥がしとったクリスティーヌを激しく叱責し、

涙に濡れたクリスティーヌが顔を上げたとき、

その瞳が1点を凝視し徐々に強張ってゆくのに気が付いた。

気付いた私は目線を追って下を向き、自らのガウンのポケットから

たらりと垂れ下がる白いものを見つけた。

ずるずる引っ張り出してみる。


引き裂かれた(ように見える)ストッキング。

引き千切られた(ように見える)ガーターベルト。


「マスター…?」

ああああうっかりポケットに突っ込んでいたのか!

呪われろ(自分)!災いあれ(自分)!

違う、お前が思っているようなことではない、

破れたのも千切れたのも偶然、脱がせたのは善意!

深いところからの衝動に駆られたわけではない(多分)!

「マスター……」

私の可憐な天使の声がドスの利いたものとなる。

おお、クリスティーヌ、低い声もなかなかイケるな。

今度こんなトーンの歌でも歌わせてみるか。

一瞬彼女のマスターに戻るが、他でもないそのクリスティーヌの冷たい視線は

たちまち私を現在の状況に立ちかえらせる。


「来なさい、そろそろ地上に戻らなけ―」

「マスターが、脱がせたの?」

「…それには色々訳が、」

「破れて、いるわ」

「……ハイ」

地を這うようなクリスティーヌの声に、私の言葉は干上がり、枯れ果てる。

瞳に光を増しながらねめつけてくるクリスティーヌと無言で見詰め合いながら、

私は我が隠れ家にも華麗に姿を消す仕掛を作っておけばよかったなと

痛烈な後悔に苛まれていた。




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