125 :1/5:2005/12/03(土) 20:57:03 ID:h74nD28u
その男は不運だった。地上に戻った二人を見てしまったのだから。

少女はマントに包まれたまま白い仮面を見上げた。

邪気のない懸念を浮かべる唇がひとつの名を零す。

「ジョセフ・ブケー」

それは、不運な男にとって死刑の宣告に他ならなかった。

ぶら下がり、力なく揺れる男の身体。悲鳴と混乱。

逃げ惑う踊り子たちの間をすり抜けながら、クリスティーヌは

ラウルを伴って屋上へ上がる。ファントムの気配を影のように引き連れて。

素肌に纏いつくような暗い情念が心地よかった。

音楽の天使もオペラ座の怪人も、そして嫉妬に燃えるあの男も、

総て自分のものにしたいと、そう思った。


結局カルロッタはパニックから立ち直れず、翌日もクリスティーヌが代役を務めた。

その夜、食事に誘うラウルを断り、一人楽屋に戻る。

鏡台の前の椅子に腰掛けると、姿身の方へ向き直った。

「…いらっしゃるのでしょう?」

クリスティーヌの言葉に鏡の表面が波立つ。

水面から浮かび上がるように、現れる黒ずくめの男。

ぎらぎらと燃える瞳はきっと千人だって睨み殺せる。

「あの、生意気な若造はどうしたのだ」

尊大な口調の底には殺意が滲んでいた。

「ラウルのことを仰っているの?彼なら今日はもう帰ったわ」

ゆったりとした仕草で椅子を指し示す。

「上着を脱いで、お掛けになって」

ファントムは肩をそびやかすとマントを脱いだ。ばさりと椅子の背に掛け、立ったまま腕を組む。

「あなたを、お待ちしていました、マスター」

クリスティーヌは立ち上がると、男の顔をじっと見上げた。

薄い色の瞳の奥に、微かに動揺の波が立っている。


すと白い手を伸ばす。一瞬身を引こうとした男の身体を、優しい声が止めた。

「動かないで、マスター」

彼の小さな弟子はふわりと微笑むと、次の瞬間彼の仮面を剥がし取った。

「何をする!」

大きく跳び退り、露わになった半面を右手で隠しながら叫ぶ。

しかし、クリスティーヌは表情を変えずに彼を見つめていた。

「お前は、」

最後まで問う前に、クリスティーヌの両腕がファントムの肩を強く。

不安定な姿勢を支えきれず床に転がる男を、少女は笑顔のままで見下ろした。

「クリスティーヌ!一体、何を…」

左肘を付き、半身を起こしかけた胸を、無言でぐっと踏みつける。


「クリス…!」

ファントムが声を荒げかけた時、ドアの外で足音が聞こえた。

「クリスティーヌ!」

「メグ?」

ノックの音とともに親友の声が響く。小さな足の下で男の胸が波打つのが分かった。

「どうしたの?何か大きい音がしたけど…」

「…なんでもないの。ちょっと椅子を引っ掛けて倒しちゃっただけ」

何事もないかのように応えながら、クリスティーヌは側にあった職台を手にとった。

「怪我は?」

「大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」

ふっ吐息を吹きかけ火を消す。そのまま蝋燭を外すと、無造作にテーブルに放り投げた。

「そう、よかった…」

足音が遠ざかる。一瞬緩んだ男の身体に、クリスティーヌは素早く馬乗りになった。


職台の鋭い先端を、ぴたりと喉に当てる。ファントムは首を逸らし、大きく息をついた。

「クリスティーヌ、何をする…」

「両手を上げて下さる?」

「!」

「早く」

燭台の先端が喉にくい込み、鋭い痛みが声を上げさせた。

「止めろ…」

ぷつりと皮膚を破る手応え。生暖かいものがつと喉を伝う。

「手を上げて、マスター」

その手のしていることとは対照的な優しい声が促す。

ファントムは言われるがまま両手を上げた。見開いた目の中に、混乱に混じり微かに刷かれた恐れの色。

クリスティーヌは小さく笑うと職台を喉から離した。

ファントムが息を吐き出す暇を与えず、身体を上にずらすと、血の流れる喉に膝を乗せ、体重を掛ける。

「が…」

呻き、頭を動かすのを無視し、頭上に上げられた両手を

自らのストールで一つに縛り、そのまま余った端を鏡台の脚に繋いだ。

そうしておいてようやく膝を離す。男は酸素を求め、大きく咳き込んだ。


「クリスティーヌ!」

身を捩るファントムに、クリスティーヌは人差し指を唇に当ててみせた。

「お静かに、マスター。さっきもメグが来たでしょう?

昨夜のどなたかのせいで、オペラ座全体がまだ動揺しているの。

私がここで、少しでも大声を出したら…どうなるのかしら」

肩で息をする男を笑顔で見つめる。

「ですから、私の言うことを聞いて下さらなくてはダメよ」

「呪われた…小悪魔め…」

怒りを含んだ呟きに、クリスティーヌは笑みを消した。

「呪われているのはどちら?

幼子をたぶらかし、醜い怪物を天使と信じ込ませ…

大した天使さまね。ゴーストで化物で、大金を脅し取る恐喝者!」

嘲るような響きに、ファントムは顔を歪ませる。

「黙れ、クリスティーヌ」

「身分と地位と正当な財産と…健やかな美貌

…あなたにはない総てを持っている若者が、大事なクリスティーヌにくちづけしたわ。

それを屋上で指を咥えてみていた哀れな醜い獣…」

「止めてくれ…ッ!」

叫んだ男の頬を、平手が襲う。

「クリスティーヌ…」

ほおに走る痛みに、呆然と名を呼ぶことしか出来ない。

少女は唇を三日月の形に撓めた。

「静かに、とお願いしたでしょう?あまり声をお出しになるなら、

手だけではなく、口まで塞がなくてはならなくなります。

…それはしたくないわ。天使さまの声が大好きなのですもの」

無邪気にすら見える笑みに、ファントムは慄然とした。

本当にここにいるのは彼の愛弟子だろうか?

首を傾げ、じっと師の目を見つめながら襟に手をかけるこの女は。


「もっと聞かせて…マスターの色々な声を」

腹に馬乗りになったまま、ゆっくりとファントムの服を脱がせてゆく。

クラヴァットを抜き取り、襟元を緩め、ベストのボタンを外して左右に開く。

薄いシャツ越しに厚い胸の頂きを指先で優しくなぞる。

男の身体が震えた。

「マスター…」

布越しにでも先端が硬く立ち上がりかけているのが分かる。

暫くそこを指で弄った後、顔を寄せるとシャツごと咥え、歯を立てた。

「ぐ…」

固く結んだ唇の間から漏れるくぐもった声を頭上に聞きながら

弾力とシルクの感触を唇でじっくりと味わう。

「シャツの上からだと…物足りなくていらっしゃるかしら…」

呟いて、唾液に濡れ透けて露になった頂を、人差し指でくるくると転がした。

「……!」

身体をよじって必死に逃れようとする男から、もちろん答えは返ってこない。

クリスティーヌは少し眉を上げると無造作にズボンのボタンを外した。

躊躇なく半ば立ち上がった熱い塊を取り出し、後ろ手に掴んだまま向き直る。

「クリスティーヌ、止めろ…!」

「止めてしまってよろしいの?…ああ、ダメなのね」

みるみる硬さと質量を増す彼自身を、逆手に包む。

ひくひくと脈動が掌に伝わり、クリスティーヌはうっとりと微笑んだ。

「ね、いつもはどうなさっているの?」

胸に熱い息を吹きかけながら尋ねる。

「ご自分でなさるの?」

握ったものを、ゆっくり上下に扱く。

「こんな風に?…私のことを思い浮かべながら?」

「…」

「言って」

ぎゅっと爪を立てて握り込む。声にならない叫びを上げて、ファントムは仰け反った。

「さあ、教えて下さる?」

「…じ、自分で…」

目を閉じたまま、呟く。クリスティーヌは一度掌を緩めると、改めて根元を強く握った。

ファントムの喉がなる。寄せられた眉根に、苦痛と快楽が同時に閃く。

「続けて。全部、教えて」

「自分で、している…お前、のことを…考えて…自分で、何度も…く…!」

強めに握ったまま、クリスティーヌは再度手を上下に動かし始めた。

「うあ、あ…何度も、お前、を…お前と…」

頭を反らせ喘ぐ喉元に唇を寄せ、甘い言葉を流し込む。

「そう…そんなに何度も私を犯したの?どうやって?」

鈴を振るような笑い声。言葉は酸のように耳から入り、頭蓋の内側を焼き、考える力を侵食する。

ファントムは頭を左右に振り、手に合わせて腰を突き出しそうになるのを堪えた。

「…まだ我慢できるのね。こんなになっているのに」

びくびくと蠢きながらも抵抗を示す身体から降り、

限界近くまで膨らんだ昂りを覗き込むと再度両手で根元を掴む。

「これでも我慢できる?」

「く…!」

強く扱き、手を離した瞬間男は低く叫び、あっけなくその先端から白濁した液を迸らせた。


「酷いわ、マスター…」

顔と胸元にべったりと付いた液体をハンカチで拭き取りながら、

クリスティーヌは口を尖らせた。

「…ふふ、我慢できなかったのね。それとも…」

焦点の定まらぬファントムの瞳を見詰め、じわりと唇を舐める。

「意地悪を言われて、感じたの…?」

放ったばかりの彼自身を両手で包み、やわやわと愛撫する。

先端の亀裂を指でなぞり、裏の合わせ目を親指の腹でそっと押す。

硬さを取り戻す兆候を感じ、クリスティーヌはそれを口に含んだ。

「う…ああ…!」

裏側を舌で舐め上げ、先端を奥歯で甘く噛む。

びくびくと身体を震わせながら、それでも何とかファントムは言葉を紡いだ。

「止め、てくれ…クリスティーヌ…もう…」

「まだお喋りできる程お元気なのね。素敵」

口を離し、クリスティーヌは微笑んだ。

先端を掌でくるくると撫でてから、口を開くと深く銜え込む。

飲み込むように喉の奥で何度も扱く。

男の口からは、もう意味を成さない喘ぎしか出てこなかった。

繋がれた鏡台が、ファントムの身体が跳ねるのに合わせがたがたと揺れる。

唇で締め付け、舌で嬲りながら早い動きで出し入れする。

ファントムはもう隠そうともせず腰を突き出した。

「………」

マスターと呼ぶ声も、ただの音にしかならない。

口の中をいっぱいに満たす肉の轡が、どくりと脈打つ。

「あああぁあ……!」

長く掠れた嬌声と共に、先端が熱く弾けた。



口の中の液体を、丸めて脱ぎ捨てたガウンの裾に吐き出す。

ぐったりしたまま荒い息をつく男の身体を眺め、クリスティーヌは呟いた。

「ダメよマスター…まだお休みになるには早いわ…」



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