538 :1/22ありがちネタ第2段 ギャグ部 :2005/05/12(木) 00:07:34 ID:y9vusZkJ

「エンジェルぅぅううぅうウウ―――――!!!!!」

静かな夜の調べをへち倒す勢いで、やたらテンションの高い声が突入してきた。


毎度おなじみ地下5F、歌って踊れる愉快な仲間たちが巣くうオペラ座の、その最深部で

城の主は半分死体と化していた。

「?、どうかしたんですか?マスタぁ???」


以前、とある事情で女性の身での徘徊の大変さを身をもって経験してしまった彼は、教え子のために

「オペラ座地下―地上、お手軽入門コース」というものを造ってみたのだったが、途端に、今度は

易々とこの地下の隠れ家に入り浸られるようになってしまったのである。

うっかりアパートの鍵を渡したが為に、居座り続けられるが如し。

それ自体は嫌なことではないのだが(もちろん寧ろ願ってもないようなことだ)、引きこもり者としては

ゆっくりと独り篭っていられる空間も欲しい…という贅沢な、然し当人にとってはそれなりに深刻な

問題が発生してしまっていた。


「あ゛―…クリスティーヌ……如何したんだね、こんな時間に・・・・・・・」

新作オペラの執筆で、数日間徹夜だったファントムは、やっとのことで返事をする。

こういう状況では尚のこと孤独が恋しい。



539 :2/22 所でコレは本トに「オペラ座」なのか :2005/05/12(木) 00:08:42 ID:y9vusZkJ
そんな事には露程気付かず、ニコニコとクリスティーヌは持参した包みを開いた。

「あのあの、今日ふぁんの人からの差し入れで、珍しいお酒をぉ、もらったんですぅ。

 えんじぇるもーどうかと思って〜」


・・・酒・・・?

確かに、顔色が少々違って見える(地下なのでよく見えない)。挙句明らかに口調がおかしい。

何とはなしに、嫌な予感が脳裏を掠める。

「・・・それで、いちいち持ってきたのかね・・・・?」

「はいぃ、ダメでしたァ??ア!ひょっとして、みんなと一緒に上で宴会のほうが

 良かったですかぁあ?」

「いや、それは断る。」即座に拒否する。

「えぇええー?なんでですかぁ?楽しいのにー」

…皆に交じって和気藹々と酒を酌み交わす脅迫者、というのは、中々に嫌な絵ヅラではなかろうか。

「・・・でもでも、きっとそういうだろうと思って、ここまで持ってきたんですぅ。

 けっこう大変でしたぁ〜」

「そういう状態のときに、無理に降りてきてはいかん。アブないから・・・・」

危ないのは果たして彼女か、それとも我が身か。

「だって!だって!!とってもとってもおいしいんですよおぉぉおおオ!!!」

「・・・・・!わかッ、分かったから、耳元で、そんな大きな声を・・・あアッ…!」

睡眠時間が欠乏しており、目の前に細かい星が飛び交うこの状況では、彼女の美しいソプラノも

はっきり言って凶器以外の何物でもない。


540 :2/33オ分かりでショウガ本トはどんな酒か知りマセン :2005/05/12(木) 00:09:39 ID:y9vusZkJ
「と、いうワケで!ぐいっ!と、どうぞ!!グイッっと!!」

ここ数日、睡眠だけでなく碌な食事も取っていない胃に、酒を入れるというのは…ッ。

クリスティーヌが差し出した、なみなみと液体の注がれたコップを見やり、自らの明日を思う。

・・・・明日の朝には夜の調べだけでなく、色々なものが終わっているかも知れない・・・・・


然しながら、目の前で満面の笑みを浮かべる愛しいひとのリクエストを、例え如何なる状態であれ、

断ることなど出来ないことは、本人が一番哀しいほどに自覚している。


意を決して口に含み、勢いで流し込む。

「―――――!!!」

確かに口当たりは良いが、やはり、喉から胃まで焼け付くような刺激が落ちてゆく。間違っても

徹夜明け、空きっ腹で口にするものではない。

・・・・もう、歳だしなぁ・・・・、と思わず侘しい感想までが浮かんで消えた。



541 :4/22 すんません与那国の人 :2005/05/12(木) 00:10:49 ID:y9vusZkJ
・・・・・・・・・・・・。

世界が、揺れる。


「どうですかぁ!おいしいですよねぇえ!!上で、マダムとか、み〜んなで飲んだんですよぉぉ〜」

「と、ころで…クリスティーヌ…コレは、何と言う、酒なのかな・・・・・・・?」

「ええと〜、じゃぽんのおさけの、ひとつらしいれす。アメフリ…雨漏り…?っていうのの一種で〜

 意味はぁ、『お花のお酒』って、いうものらしいですぅ〜」

「…アワモリの、花酒・・・・・?」

「あ、そんなぁカンジ〜」


コメを原料としたスピリッツの一種です。アワモリのうちの一番絞りのものをいい、度数は60です。

昔何処かで読んだ一文が、文字列となって頭の中を流れていった。

途端、揺れていた世界が回転し始める。(メンタルな生き物ですね)


―――それでぇ、メグたちといっしょに…に在った…オペ…の…ルメンの台本とか、読ん………それで…

これほど近くに居て、あれほど大きく感じていたはずのクリスティーヌの声が遠のき、小さくなっていく。

今月の人生訓。嫌な予感は必ず当たる。

「…で、ハ……バルの、小道具とか、皆で・・・・・?エンジェル?あれ、どうしたんですか〜??」

全てのものが、遠く、遠く去っていくような世界を感じながら

ファントムは真横に昏倒した。



542 :5/22 ハード系ではないですが :2005/05/12(木) 00:11:32 ID:y9vusZkJ
「もしもぉし?ますたぁ〜??あははははは!どうしたんですかぁ、いきなりぃ」

急にぱたりと、ぜんまいでも切れたかのように倒れた師を見つつ、クリスティーヌはなんだか次第に

楽しい気分になってきていた。


「・・・・ふわふわする・・・・・」

ぼんやりと立ち上がろうとしたときに、その手が何かに当たってしまった。

ガタン、という音とともに蜀台が倒れ、火の点いたままの蝋燭が転がっていく。

あたりに散らかる紙類に燃え移らなかったのは奇跡としか言いようがなかったが、

そんなことにはまったく気にも留めず、クリスティーヌは今だ周りを明々と照らすそれを手にとる。

片手で弄ぶうちに、ぽた、とその蝋が、下に落ちた。

落下地点に位置していたのは、人の腕。


「!ッ!!」

幸いにして服の上からであったが、急激な鋭い痛みに無意識に声を上げる師を

クリスティーヌはじっと見つめていた。

その瞳に映る色合いが、ゆっくりと変わっていくのに気付く者は、もはやこの地下には居なかったのだが。


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