175 :ファントム×踊り子(新月の夜):1:2005/10/08(土) 22:31:17 ID:YP+tpxeF

見知らぬ仮面の男から教えられた肉の悦びを夜ごと反芻するようになって幾日が過ぎただろう。

男の手の動きを思い出しながら乳首やクリトリスを弄ってみても、

あの晩男から与えられたような快感を得ることはできなかった。

だから当然、あの夜味わったような絶頂感を得ることもできない。

焦れて何度自分のなかに指を入れただろうか。

しかし、単に痛くて怖いだけで、何ら快感を得ることなどできなかった。


あの晩から二週間が過ぎた頃、隣の彼女が真夜中にベッドから抜け出していくのを

歯噛みする思いで見送った。

あの男に抱かれ、悦びの声を上げながら乱れていく彼女の姿を想像し、

羨ましくて妬ましくてならなかった。

今この瞬間、彼女は男の手で逝かされ、そして自分はひとりベッドのなかで自ら慰めている。

なんという違いだろうか……。己の惨めさに涙が出たほどだ。


といって、また彼女の後をつけていく勇気は私にはなかった。

もし見つかれば、今度こそあの男に犯されるのだ。

いくらあの男を思い出しながら肉の悦びに耽っているといっても、

どこの誰とも知らない男に初めてを捧げるのはさすがに躊躇われた。

私を愛してもいない、自分の恋人を支配人の愛人にしておいても平気な顔をしている、

そんな男に今まで守ってきた純潔を捧げるのはごめんだった。


しかし、日ごと夜ごとに募っていくこの想いを、私は一体どうしたらいいのだろう。

あの男の手……、私の頭を撫でてくれたあの優しげな手にもう一度触れてみたい……。


そして、とうとう今夜が新月だった。

「濡れる」という感覚も「逝く」という感覚も男に教えてもらった。

まだ自分の知らない未知なる悦びも男に教えてもらいたい……。

あの優しい手にもう一度触れ、恋人になってくれるよう頼んでみよう。

恋人になってくれる男にその証として純潔を捧げるのだ。

男は私の申し出に是と言ってくれるだろうか……。


不安と期待と緊張とで心臓が高鳴り、息遣いも荒いまま調光室の扉の前に立った。

二、三度扉を叩いてみる。返事はない。

そっと扉を開けてみると、果たしてそこにこの前と同じ白いシャツに黒いパンタロン姿の男がいた。

舞台を見下ろすことのできる天窓からじっと下を見ていた男がゆっくりとこちらに振り向く。

この前と同じ黒い仮面をつけている。

その仮面の奥から覗く眸……、ああ、自分はこの眸で見つめられたくてここに来たのだ。


「来たな」

ぼそりと男が言い、ゆっくりとこちらへ近寄ってくる。

緊張でますます息遣いが荒くなってしまうのを男に見咎められやしないかと心配になる。

男の右手が私の左腕に掛かったと思った瞬間、男に横抱きに抱きかかえられた。

「あっ……!」と驚いて叫ぶと、

「なんだ、男の味を教えてもらいに来たんじゃないのか」

と男が可笑しそうに私の目を覗きこみながら言う。

「ちょ、ちょっと待って……、降ろして」

「…………」

男が不機嫌そうに顔を曇らせ、黙ったまま私を床に降ろした。


「条件があるの……」と声が震えそうになるのを、努めてゆっくりと話すことで

なんとかごまかそうとする。

「あの子と別れてくれる? そしたら、あなたに私の初めてをあげてもいいわ……」

「誰が、誰と別れるって?」

心底びっくりしたような声で男が問うた。

「だから、今はあの子があなたの恋人なんでしょう?

 私、あなたと……、その、あの……、そうなってもいいけど、

あの子と二股をかけられるのは嫌……、それにあなたの顔をちゃんと見てから……」

そこまで言ったところで、男の眸が軽蔑するように私を見下ろしているのに気づいた。


「あの……?」

「随分と自分の都合だけを並べてくれるじゃないか。私の顔が見たいだと?

 はっ、そんなに見たかったら見せてやってもいいが、おまえは絶対に後悔するぞ。

 第一、あれは私の恋人なんかじゃない、おまえだとて知っているだろう、支配人の愛人だと」

「だけど、あの時……」

「あの時? やはりあの時、おまえは後をつけてきただけでなく、私たちの行為を

除き見たんだな。だからあれが私の恋人だと思ったんだろう?」

「…………」

「やはりそうか」

男が言いざま、ふたたび私を抱え上げた。

「やっ、何するの!?」

「今夜、ここへ来たら男の味を教えてやると言ったろう。

望みどおり教えてやろうじゃないか。

 それ以外のことを約束した覚えはない。おまえの身勝手な条件など知らぬ」

「やっ、降ろして、降ろしてってば!」

男に抱えられたまま脚をばたつかせてみたがまったく効果はなく、

私は調光室の隣の部屋に連れ込まれてしまった。


その部屋は、舞台の一方からもう一方へ俳優をつり渡す機構のある部屋で、

調光室より幾分狭かった。

俳優が舞台の向こう端から渡されてこの部屋に降りる際、怪我をしないようにと

敷いてある敷物の上に投げ出される。

身を起こす間もなく、男に組み敷かれた。


「いや……、おねがい、やっぱり嫌……」

「何をいまさら……、おまえは自分からここへ来たのだ、……もう遅い」

男が肩口に顔を埋めてくる。


「あぁ……っ!」

男の唇が肩口から首筋へと這っていく。

耳元まで来ると、そのまま耳朶を舐められた。

「はぁっ! ああっ、やあっ……!」

初めて感じる耳朶への愛撫に全身が顫えてしまう。

くちゅくちゅと男が舌を這わせる水音がして、その音だけで頭の芯が痺れてしまう。


耳朶を舐め取られて陶然としているところへ、男の手が背中にまわされた。

男と会うために、普段着ではあるけれどブラウスにスカートを着けて来たのだ。

男が背にまわした手でブラウスのボタンをはずしていく。

そのままスカートのリボンを解かれ、スカートも取り去られる。

薄いシュミーズとペチコートだけにされた。

「おねがい、もう、やめて……、ね……」

こんな風に結ばれるはずではなかった。恋人になると言ってくれた男の素顔を見、

キスから始まって甘い愛の言葉を聞きながら結ばれるはずだったのだ……。


しかし、どんなに哀願してみても男は冷たい眸のまま私を見下ろすばかりで、

やめてくれる気配は微塵もなかった。

「いや、いや……、やめて……」

男の手がシュミーズにかかる。

小さいボタンを器用にはずし、あっという間に胸を広げられた。

「ああっ、いや……!」

両手で胸を隠す。男がちらりとそこに視線を走らせると、すぐさまペチコートの紐を解き、

胸を覆った手で男の動きを阻止するかしまいか迷う間もなく剥ぎ取られた。


私は小さい下着ひとつで男の前に横たわっていた。

せめて身体を捩ってうつ伏せになり、男の眸から逃れたかったが、男が腰のあたりに

乗っているため、それすらも叶わない。

「ああ、おねがい……、ゆるして……」

私は馬鹿のひとつ覚えみたいに同じことしか言えず、男は当然何も答えてなどくれなかった。


男の手がふたたび私の胸元に伸びてくる。

胸を隠している腕を掴まれた。

「やっ!」

男の強い力で腕を拡げられ、そのまま両手首を一方の手でまとめて押さえつけられた。

空いたもう片方が乳房に下りてくる。

「ああ───っ!」

男性からの愛撫を一度しか受けたことのない乳房が、男の手によって揉みしだかれる。


「やあ……、やめて……」

泣きながら懇願してみても、男はその手を止めることなく、私の乳房を捏ねくっている。

嫌なのに……、こんな風に乱暴にされて、愛情のかけらもないような揉まれ方をされて、

心底嫌なのに、乳房をゆっくりと揉みこまれるたび、腰のあたりに重く甘い快感が

ずしりとしみてくる。




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