パリ・オペラ座に三つの影。

蝋燭の明かりの中で、一冊の本を広げる男達がいた。


「サンクリだな」

「サンクリですね」

「サンクリよ」

「オカマみたいな喋り方は止めてくれたまえ、ミスター・フィルマン」


咳払いを一つして、アンドレは立ち上がった。


「今回のカタログを見ましたか?『ドン★ファン』は今回委託じゃないみたいですよ」

「な、なんだってー」

「彼の素顔をついに拝めるのか」

「まぁ、今回も我々の勝利に決まっていますがね。この壁配置、完璧だ」

「本は分厚く48ページ!表紙はフルカラーで落ち着くマット加工にしてみたぞ」

「相変わらず美術担当の仕上げる表紙は美しいですね。あ、この乳首の勃ち具合なんか…ウッ」

「早漏ですな、シャニュイ子爵」

「今回も前回と同じく人気のメグ×クリス!本のタイトルは『メグとクリスの教えてABC』」

「どっかのエロゲーにあったな、そんなタイトル」

「しかも微妙に古くないか?」


机がバン!と叩かれ、新刊の山が一部崩れた。


「古いとか新しいとか関係ないじゃん!」

「ネタにマジレス…」

「とにかく早期入稿皆さん乙!今回もいい出来だ」

「今回はメグ×クリスなんですよね?何故マダム・ジリーまでいるんです?」


ラウルが本をパラパラとめくりつつ、股間を押さえる。


「それは子爵、『教えて』って言ってるんですから教えないと。マダム攻めです」

「マニアックだ…」

「でもなかなか面白そうではないですか。ほら、特にここなんて。トゥーシューズをお互いに挿れ合う所」

「そこは作監渾身の見開きだな。もう汗だか汁だか分からない所が萌える」


彼らが活躍する舞台は今回もオペラ座。ついに明日は待ちに待ったサンシャイン・クリエイションだ。

パリではサンクリもオペラ座でやる。オペラ座クリエイションではないのに疑問を持つ者は少なくないが。


「今回、やけに作画スタッフ増えてませんか?」


ラウルがあとがきページを見ながら言う。

それに答えるのは自信満々のアンドレだ。


「そうなのですよ、前回の売り上げは凄かったものですから、作画に時間をかけて、更にいい出来になっています」

「明日が楽しみだ。今回はブドウブックスさんと豹の穴にもう通販分を送ったから、遠方の方も安心して買える」

「ファントムは売れてるがマニアックなせいで未だ島配置だ(藁)隣は…えっ、カルロッタ×フィルマンサークルの『ハイヒール』じゃないか」

「まだここのサークルあったのか!私が彼女の靴で酒を飲まされたのは強引にだな…」

「まぁ、君は受けということだね」

「801じゃないことに感謝したまえ」



サンクリパンフも大方見終わり、それぞれのチェックサークルに蛍光マーカーを引いて、付箋を付ける作業に入った。


「フィルマンはどこの本を買うんだ?ふたなり好きだからやっぱプリキュア?」

「プリキュアはふたなりじゃない。それは一部のマニアの固定観念だ。私は藤P×なぎさ派だ」

「マイナーですね」

「マイナーだな」

「そういうミスター・アンドレ、君はどうなんだ?君はメガネっ子巨乳萌えだっただろ?」

「今季のアニメには萌えるものが無い。でもブリーチの織姫たん可愛いよな」

「私は雛森が好きですね。和服は萌えますよ」

「シャニュイ子爵は?何萌えなんです?」

「私は…」

「「私は?」」

「私はクリスティーヌ一筋ですから…そんな、萌えだなんて」

「偽善者だ」

「偽善者だな」


赤くなるラウルを肘で小突きながら、アンドレとフィルマンは笑った。


「まぁ、明日の売り子は私達に任せて、シャニュイ子爵は本でもあさって来てください」


それぞれの思惑が交錯しながら、夜が明ける。決戦の日だ。


晴れたらパリ♪とはよく歌ったものだな」


眩しい程の日差しを浴びながら、アンドレはオペラ座のサークル入場口から入る。


「いい天気だ。サンシャインに相応しい」


フィルマンもそれに続く。


「本は今回もすでに搬入されているんですよね?」


ラウルがバンダナをきつく額に巻きながら尋ねた。


「あぁ、もう壁一面に置かれていることだろう。それより…」

「それより?」


急に神妙な面持ちになったフィルマン。


「『ドン★ファン』のファントム…ついに奴と会える日が来るとはな」

「今回はどんなオナニー本なんでしょうね」

「分からん、でも奴のことだ。また鬼畜陵辱に決まっている。バカめ。市場が読めていない」


勝ち誇った顔で乗り込む三人。

それを見つめる一人の男がいた。


「フッ…私とクリスの情熱のプレイを待ち侘びてる読者がいる限り、私は戦うぞ。見ていろ『オペラ座』」


その目の下には隈が出来ている。

彼は前回、猥褻物陳列罪で逮捕、補導された。そのせいで彼の完璧なスケジュールは乱れ、原稿の入稿もギリギリだったのだ。


「今回は根強い人気の教師と生徒物…ラストのアルトリコーダー挿入シーンは自信作だ…」


自分の同人誌『笛は歌う』に頬擦りしながら、仮面の男は会場へと入っていった
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