会場に入ると、ヤフオクでチケットを落札…失礼、すでにサークル入場した人が、『オペラ座』前に並んでいた。

会場前に最後尾カード。大手ならではだ。

「ついに始まるな…諸君、私はこのドキドキがたまらなく好きだ」


アンドレはお釣り用の小銭を整理しながら呟く。

その瞬間だった。オペラ座に嬌声と怒号と歓声が響き渡り、シャンデリアが揺れた。

スワロフスキー製のクリスタルが揺れ、パリ中のオタク達を祝福するかのように輝く。


「始まった…か」


アンドレとフィルマンは恐ろしい程の手際の良さで本を捌いていく。

その傍らでお客との交流も忘れない。


「今回の本も楽しみにしてました!やっぱり『オペラ座』最高ですよ!」

「ありがとうございます。今回も全力で作りましたので、またよろしくお願いしますね」

「前回の『Slave』のシチュは萌えでしたよ!また奴隷ネタやって下さい!」

「了解しますた!」


その混乱に紛れて、ファントムも本を捌く用意をする。


「よし…情熱のプレイを始めるぞ!」(字幕:戸棚)


『ドン★ファン』の前にも、すでに列は出来ていた。

今回初めて直参ということで、それを待ち望んでいたファン達は差し入れをしていく。


「あの、ファントムさん!これ…サロンパス使って下さい!」

「ファントムさんの描く断面図じゃなきゃ抜けません!記念に栓抜き使って下さい!」

「これ、オークションで落札したクリスの隠し撮り写真です!」

「リポD飲んでください!」


意味不明な差し入れも多かったが、ファントムは直接手で売る感動に打ち震えていた。


新刊『笛は歌う』はファントム得意の局部近接描写、断面図、鬼畜で34ページを描ききっている。

表紙はフルカラー。修正ギリギリな絵が、購買欲をそそるものだった。


「見ろ…あいつがファントムだ…」


フィルマンが横目で、『ドン★ファン』のスペースを覗く。


「うわ懐かしい!あれジャンプでやってた変態仮面のコスじゃないか!」

「実際やられるとただの変質者にしか見えないがな。相当な根性だ」

「そうする?挨拶に行くか?」

「待て、我々の本を待ってる皆を置いてはいけない。もう暫く待つんだ。このペースならあと1時間で完売だ」

「今回何部刷ったんでしたっけ?」

「5000部だが何か?」

「それに既刊の本もあるんだよな?」

「そう」


アンドレは改めて自分のサークルの規模を考えていた。

最後尾列は既に、会場の外まで伸びている。

その頃ラウルは、飛翔ジャンルスペースに迷い込んでいた。


「な、何だここは…学ランを着た婦女子に…あの青と白の制服は一体?」


戸惑うラウルに、低級コスのコニー達が殺到してきた。


「キャー!不二様素敵くぁアすぇdrftgyふじこ!1!11」


ラウル、撃沈。

同人誌即売会の恐ろしさを身をもって体験した瞬間だった。

そんなラウルのことに思考を巡らす予定もなく、アンドレとフィルマンは本を売る。

どの本も500円均一にするのが『オペラ座』の決まりだ。どんなにコストがかかっても、お客様第一。

安く、早く、うまいをモットーにしているのだ。

複数買ってもお釣りは500円で済む。計算を効率的にし、お客様を待たせない努力も怠らない。

一方、『ドン★ファン』はやや高めの価格設定だが、いつもオマケがつく。

今回のオマケはクリアファイルだった。お客の購買意欲をそそる方法は、どちらも甲乙つけ難い。


「よし…ラストスパートだ!もう最後尾列が見えてきたぞ…」

「ブーストオン!」

「メッサーウイング!!」

「このネタ分かるヤシはいるのか?」

「21歳以上なら分かるんじゃないか?」

「でもマニアックだろう?」

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